かながわ国際交流財団 設立40周年

2017年、神奈川国際交流財団は
設立40周年を迎えました。
1977年〜2017年までの年表と、
主要な事業を紹介する連載記事をご覧ください。

かながわ国際交流財団 設立40周年

かながわ国際交流財団 40年のあゆみ(連載記事)

1977年の設立以来、2017年で40周年を迎えたかながわ国際交流財団(KIF)。
どんな時代状況の中で、どのような活動を行ってきたのでしょうか。
主な事業をご紹介しながら振り返り、将来を展望したいと思います。

KIFの歴史は、多くの方のご協力で進められてきました。長期間、多岐にわたる事業の中で、現在のスタッフには見えないことも多いと思います。

当時の様子についてのコメントや、お気づきの点などありましたら、ぜひ当財団へご連絡ください。

※一部のスマートフォンでは、文字が正しく表示されないことがありますので、その場合にはPCで閲覧していただくようお願いします。

第10回 世界の入口に立とう
「国際人材育成」高校生向け事業から

かながわ国際交流財団(KIF)の40年間の活動をふりかえる連載の第10回です。
今回は、KIFの事業の4つの柱のうち、第3の柱「国際的な人材の育成」について、前回の大学生向け事業に続き、高校生向けに実施している3つの事業についてご紹介します。

※画像はクリックすると拡大します。人物の肩書は当時のものです。

●世界を知り、考えるチャンスを

なぜ1日に何度もお祈りするの?

体育館いっぱいに朗々と声が響き、大勢の高校生が耳を傾けます。
KIFが実施する「高校国際教育支援事業」=高等学校への国際教育の講師派遣事業のひとこまです。

「イスラム教徒が1日5回礼拝すると言うと、『大変ですね』と言われます。でも皆さんは日に3度ごはんを食べますね。ごはんが身体の栄養になるのと同じように、心にも栄養が必要です。イスラム教徒の5回の礼拝は、心のごはんです。きちんと時間を取って、心に栄養を与えるのです」

「イスラム教の礼拝では身分や立場に関係なく、皆が横一列に並びます。これはイスラム教の『平等』の思想を象徴しています。イスラム教は世界に広がっていますが、普遍的な教えが多くの人を惹きつけているのです」

この日の講師は東京・代々木にある日本国内最大のモスク「東京ジャーミイ」の広報担当、下山茂さん。数少ない日本人ムスリムのおひとりです。日本は歴史的にイスラム教との接点が薄く、イスラム教徒の習慣やその理由・背景について知っている人は少数です。様々な誤解や偏見もある中で、下山さんはイスラム教への理解を広げる活動を精力的に続けておられます。



体育館での講演会。イスラム教徒のお祈りについて説明する下山茂さん。この後高校生の前で実際にやって見せてくださった

東京・代々木にある「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」。下山さんはここで広報を担当し、見学者の案内などもされている

近くて遠い国に、もっと近づきたい

また別の日。夏休みに韓国訪問を実施する高校での事前学習を行いました。

この日の講師は韓国から来日し、外国人住民の立場から地域の国際交流ラウンジで活動し、また外国出身の親たち自身による子ども支援の活動を通し地域で仲間を増やしてきた崔英善(ちぇ・よんそん)さん。現在は藤沢市で多文化共生専門職員として外国人市民会議のコーディネーター、また「日本外国人協会」を立ち上げるなど多方面で活躍しています。

日本から最も近く、人々の容姿も街の様子もよく似た韓国。歴史や日韓関係など複雑な問題も多く、だからこそもっと深く互いを知り合い、対話していきたい国です。崔さんは韓国訪問を控えた高校生に、制服や給食、受験戦争からバレンタインデーを始めとする恋愛の記念日まで、同世代として親しみを持てる話題を写真を交えながら紹介していきます。

食事も似ているのに、茶わんを持ち上げるのがマナーの日本と持ち上げないのがマナーの韓国。なぜ?という身近な疑問から、韓国の名物「サムゲタン」「石焼ビビンパ」と、日本の名物「寿司」「冷たい蕎麦」は韓国の厳しい冬と日本の蒸し暑い夏という風土から来たものであることを例に出し、「ちがい」や「文化」には理由があること、自分の日常や常識と異なるものに出会った時、関心をもち、「なぜ」なのかを知ることで、異なる他者に対する敬意が生まれ、世界が広がっていくことを、ご自身の経験を織り交ぜながら伝えてくれました。



韓国の民族衣装チマチョゴリを着て高校生に語りかける崔さん

困難な世界の中で、わたしにできることは何か

また別の日、講師は、テレビのニュース番組などにも出演されているフォトジャーナリストの安田菜津紀(やすだ・なつき)さん。「世界、東北の子どもたち」をテーマに、安田さんが写真を始めるきっかけとなった高校時代のカンボジア訪問の経験、取材で出会った東日本大震災で被災した方々や、激しい紛争に苦しむシリアの子どもたちについてお話しいただきました。

世界で災害や紛争がどのように起きているか、高校生にとってわかりやすい解説を加えながら、大きな困難に襲われた人たちと直接出会い、安田さんご自身が経験した「写真」という直接には人を助けることができない自分の仕事に対する無力感や葛藤、一方でその中で見出した「生」に対する希望が語られました。

この日安田さんの講演を聞いたのは、国際英語コースを選択した高校生でした。「講師の先生」というより先輩に近い、若い安田さんがご自身の思いを率直に話されるのを目の前にして、高校生が自分の将来について考えるうえでも、大きな刺激になりました。



フォトジャーナリスト安田菜津紀さんの講演。
講演を終え高校を出発するまでたくさんの高校生に囲まれた

「違う」ことは誇り~人との出会いが、自分にしか生き得ない人生をくれた

冒頭に挙げた下山さんは大学時代探検部に所属。20歳の時アフリカ・ナイル川流域の調査に参加したことをきっかけに、人生が変わっていったといいます。

「ぼくがアフリカに行ったのは二十歳の時でした。(今話を聞いている高校生の)皆の、いまから3~4年後ですね。なぜアフリカだったかとよく聞かれますが、今振り返るとその時に特別な理由はなかった。しかし結果として、その経験がその後の人生を決める決定的なものになりました」

調査のため滞在したスーダンの村の人たちのあたたかさ、帰国後に出会ったイスラム圏の様々な国からの留学生との出会いなど、国や民族を超えた「イスラム」というつながりの中でたくさんの友人を得た経験が入信を決意させたのだそう。

「若い時期にどこかに行ったこと、誰かと出会ったこと、人とは違う経験をしたこと。それはその人にしかない世界を作るとても大事なもの。そして新しい世界に踏み出す時、『人との出会い』が背中を押してくれる」

「27歳の時にイスラム教徒になって40年、うんざりするぐらい『なぜ』と聞かれてきました。『違う』ことは私の誇りです。ぼくは今66歳。同年代の多くが仕事を引退し、抜け殻のようになっている人もいる。でも、私には私にしかない世界がある。いまも毎年イスラム諸国へ行き、新しい人と出会い、世界を広げることができる。かけがえのない、自分にしか生き得ない人生であることにとても満足しています」

情報があふれる中で、人との出会いを

高等学校からは、将来や進路について考える機会としての講師派遣の依頼も多くあります。KIFの高校生向け人材育成事業では、自分とは異なる人たちと関わりあいながら自分の人生をつくってきた人たちと、直接出会う機会をつくることを大切にしています。知識や情報としてだけではなく、その人の生きる姿勢や熱意に触れることで自分自身の将来を考える機会にしてほしいと考えています。

高校時代は、人間形成の基礎をつくり、柔軟に多様な視点を吸収できる大切な時期です。あらゆる経済活動のグローバル化が進み、身近な地域に外国人住民が増えていく中、世界に向けて広い視野を持つこと、自分とは異なるものに関心をもち、理解し、対話しながら一緒に行動していくことは、どんな進路を選んだとしてもとても重要です。

進路の方向がある程度定まった大学生とちがい、高校生を対象とする事業、特に高校へ講師を派遣する事業は「国際」「グローバル」と自分は縁遠いと考えている生徒たちも含め、幅広い層の若者たちにもアプローチできる貴重な機会です。

ご紹介した「高校国際教育支援事業(講師派遣)」のほか、高校生向け事業としては、留学生など若い世代の外国人ゲストと日本語・英語で気軽に話せる催し「インターナショナル・カフェ」、国際的なテーマに関心をもつ高校生が集い、参加型のワークショップやディスカッションを行うセミナー「青少年国際セミナー(K-PIT)」がありますが、いずれも様々な人や新しい価値観との出会い、交流、対話を大切にしています。



留学生などと身近な話題で交流する「インターナショナル・カフェ」。この日は留学生の出身国の料理を一緒につくった


●現在実施中の3つの事業

高校から国際教育に関わる学習プログラムの相談を受け、講師を派遣する
高等学校国際教育支援事業 https://www.kifjp.org/nimp/highschool

高校国際教育支援事業は、神奈川県内の高等学校に国際教育の講師を派遣しています。高校生を対象としていますが、講師派遣により県内の高校がより充実した国際教育を行うことを支援する目的があります。国際的な分野・多文化共生の分野5つのカテゴリーに分けて希望校を募集しています。


高校への国際教育支援事業(講師派遣事業)のカテゴリー(2017年度)
A 貧困、平和、人権問題など 地球規模の課題を考える
B 多文化社会を生きる
C グローバルな視野で活躍する人と出会う・進路を考えるきっかけをつくる
D 留学生との交流・グループワーク
E 教員研修 (A~Dのテーマの講演、生徒の主体的な参加・コミュニケーションを促すワークショップなど)


募集案内

https://www.kifjp.org/nimp/highschool

これまでの実績
https://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2018/06/07_hakenjisseki_H19_H29.pdf




高校生が留学生や外国につながりを持つ若者と身近な話題で交流したり、神奈川で外国人が多く暮らす地域を一緒に訪ねる「しゃべり場」
インターナショナル・カフェ https://www.kifjp.org/nimp/cafe

神奈川県内の高校生世代を対象にした、少人数でのコミュニケーションを主体としたセミナー。
地域に暮らす留学生や外国人住民等の生の声や活動を知り、気軽に話すことのできる場です。一緒に料理を作ったり、県内の外国人住民が多く暮らす地域でのフィールドワークを行うなど、様々な形で交流して、多様な人々とコミュニケーションを取り、理解し合うためのヒントを学びます。ゲストの出身国によっては、英語でも交流できます。



2018年6月に行われた
「インターナショナル・カフェ」。
この日のテーマは「外国で働く」。少人数のグループで気軽に話せる

グローバル社会の課題に関心のある高校生を公募し、主体的な学びを促す
多彩な参加型プログラムを取り入れ、互いに未来を視野にディスカッションするセミナー

青少年国際セミナー(略称 K-PIT) https://www.kifjp.org/nimp/k-pit

K-PITは県内高校生を対象に、多文化共生や国際協力をテーマとして、講演・映画の上映・参加型ワークショップなど多様な手法を組み合わせて行う催しで、年に1~2回実施しています。宿泊セミナーとして、あるいは日帰りの場合も午前・午後を通して長い時間を講師や仲間と共有することが特徴です。

次回は2019年1月20日に、南米などから来日する日系の高校生との交流を交えたプログラムを実施する予定です。

詳細は決まり次第こちらのページでお知らせします。

これまでの実績
https://www.kifjp.org/nimp/k-pit



昨年度(2017年度)実施した
「青少年国際セミナー」ちらし


●KIFのこれまでの蓄積

Think Globally, Act Locally

国や地域の枠組みを超え、政治・経済・文化のあらゆる分野に変化をもたらす「グローバリゼーション」は1990年代、ブラジル・リオデジャネイロで開催された「地球サミット」などを契機に、日常生活にも深い影響を及ぼすものとして次第に認識されるようになっていきました。

このころ、グローバル化を足元の地域社会から考える標語として普及するようになった「Think Globally, Act Locally」は、神奈川県の政策のもと1970年代に「国と国」の「国際」から、「民と民・地域と地域」の「民際」協力のための活動に取り組んできたKIFの活動と通底する言葉でもあります。

グローバル化の課題について考え、解決に取り組む人材育成事業は、KIF発足以来継続して行われてきました。過去に国際協力NGO・ボランティアグループなどと連携して「貿易ゲーム」を発行したり、県内の教育関係者やNGO関係者を対象に「地球市民学習」の指導者養成セミナーを開催するなど、開発教育を進めてきたこと、また、学術関係者との連携で国連大学共催の大学生向けセミナーや「グレート・ブックス」プロジェクトなどリベラルアーツに関わる事業を実施してきたことが、現在の高校生向け国際人材育成事業にも活かされています。

(40周年のあゆみ 第2回第5回 参照)

「総合学習の時間」開始を機に、学校とNGOの橋渡し

2000年に「総合学習の時間」が全国の小学校・中学校・高等学校で開始され、その実践例の筆頭に「国際理解」が挙げられたことを契機に、異文化理解や環境・貧困・平和などグローバル社会の課題をテーマとした学習が学校教育の中でも普及・浸透していきました。KIFが高校生向けの国際教育事業に着手したのもこの時期にあたります。

KIFは、NGOとの協力による様々な事業や、かながわ民際協力基金による海外協力・外国人住民支援活動への資金助成など、多くのNGOや市民グループとのネットワークを築いており、NGOと出会いたい学校、学校とつながりたいNGO双方への情報提供・相談や、講師派遣事業などで橋渡しの役割を果たしてきました。

「青少年国際人材育成」研究事業~青少年国際セミナー(K-PIT)開始

2004年度からは、大学教員4名、高校教員2名とKIF(当時はK-face)役員による研究会を開始し、高校生世代を対象とした独自の国際人材育成プログラムの開発に着手しました。

研究会は3年間継続され、「そもそも国際人とはどのようなものか」というゼロからの議論から始まり、セミナーの方向性や具体的な構成の検討、セミナー実施と検証を重ね、成果の発表会も行われました。

この研究会から始まった「青少年国際セミナー」は、知識だけでなく、ものごとの本質を探る思考能力と、異質なものを排除せずに多様性を受け入れ、対話により新しい価値を生み出すことができる心的態度を養成することを基本とし、同世代の同じような関心をもつ仲間と時間をかけて語り合うことのできるセミナーとして、「哲学対話」などのプログラムを交え、現在も継続しています。

2020年に予定されている大学入試制度改革などでも、これからのグローバル社会を生きるために必要な力として、「思考力・判断力・表現力」「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」の重要性が強調されています。2004年開始の「青少年国際セミナー」の中には既にそういった要素が盛り込まれており、時代の要請をとらえて実施してきた事業といえるでしょう。



2004年度から行われた
研究会の報告書

青少年国際セミナー(K-PIT)実施風景
(2006年)

地域国際化教育支援事業

2013年度までは、「地域国際化教育支援事業」として、県内の中高一貫校で中学3年生向けの国際理解ワークショップと、高校1年生向けの国際理解をテーマとした年間プログラムの企画・実施協力を行っていました。2002年度から約10年間続いた事業の中で、開催に必要なノウハウを学校側に引き継いで事業は終了しましたが、講師・関係団体と学校を直接つなぎ、プログラムを実施した経験は、KIFにとっても貴重なものになっています。

次世代を視野に、これからも

あらゆるものがグローバル化し、急速に変わっていく世界。数十年後、いまの高校生世代が大人になった時、迎えているのはどのような社会でしょうか。外国にルーツを持つ子どもや若者もこれまで以上に増えていくでしょう。

当財団では、広い世界の可能性に触れること、様々な状況をグローバルな視点から考える姿勢を持つこと、また身近な生活の中でも、自分とは異なる人々への関心や敬意をもって共に生きていこうとする姿勢を持つことを、これからも様々な切り口から、高校生と一緒に考えていきます。

次回は、県内NGOへの助成システム、かながわ民際協力基金についてご紹介します。

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