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かながわ国際交流財団 設立40周年

1977年の設立以来、2017年で40周年を迎えたかながわ国際交流財団(KIF)。
どんな時代状況の中で、どのような活動を行ってきたのでしょうか。
主な事業をご紹介しながら振り返り、将来を展望したいと思います。

KIFの歴史は、多くの方のご協力で進められてきました。長期間、多岐にわたる事業の中で、現在のスタッフには見えないことも多いと思います。

当時の様子についてのコメントや、お気づきの点などありましたら、ぜひこちらへご連絡ください。

※一部のスマートフォンでは、文字が正しく表示されないことがありますので、その場合にはPCで閲覧していただくようお願いします。

第8回 「地球市民」の学びを広げる
~1990年代末~2000年代後半、地球規模の課題への取組~

かながわ国際交流財団(KIF)の40年間の活動をふりかえる連載の第8回です。
ここまで、第4回から4回にわたり、KIFの事業の4つの柱のうち、第4の柱「学術・文化交流」の主な事業と、この分野の事業のルーツとなるかながわ学術研究交流財団(K-face)の活動をご紹介してきました。
今回は、第3の柱「国際性豊かな人材の育成」に関わるこれまでの蓄積の中で、1998〜2011年、神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)を拠点としていた時期の事業を、当時の状況と併せてご紹介します。

※かながわ国際交流財団(KIF)は、神奈川県国際交流協会(KIA)とかながわ学術研究交流財団(K-face)の二つの団体が2007年に統合してできた団体です。今回ご紹介する1990年代末~2000年代末は、初期はKIFの前身であるKIAとしての活動、2007年以降はKIFとしての活動となりますが、この記事の中では表現を統一し、KIFの活動としてご紹介しています。

●1990年代~2000年代のキーワード
~「地球的規模の課題」「持続可能な開発」「地球市民」~


1990年代は、環境問題や貧困、紛争など国家を単位としては解決できない様々な問題が「地球規模の課題」として認識され、将来世代に引き継ぐことができる「持続可能」な 方法での開発の必要性と、そのための行動が広く呼びかけられるようになった時期です。

この時期、環境問題や紛争、貧困・格差など、グローバル社会の持続可能性に対する危機感を背景に、国連人間環境開発会議(1992)、国連人口開発会議(1994)、国連社会開発サミット(1995)、世界女性会議(1995)、国連人間居住会議(1996)など、重要な国際会議が次々に開催されました。政府、国際機関、専門家などによる国際会議と並行して、そのテーマに取り組むN G O 等による市民レベルの活動や政策提言も活発に行われるようになり、様々な課題を地球規模の構造の中でとらえ、身近な地域で行動する人々を「地球市民」、その行動・思考のスタイルを「ThinkGlobally, ActLocally」という言葉で表現し、これが広く聞かれるようになりました。(※1

1995年に阪神淡路大震災が発生、多くのボランティアが被災者支援を行い、ボランティア元年とも言われました。その直後には特定非営利活動促進法案(NPO法)が成立。数多くの団体が設立され、社会の課題を解決するために主体的に行動することへの意識が高まり、環境も整っていきました。

2000年には国際化・情報化など様々な社会の変化に合わせ、小学校から高校の学校教育の場で、社会で実際に起きている事柄を題材に進める「総合的な学習の時間」が始まり ました。2004年には日本政府が提案して推進された国連の「持続可能な開発のための教育の10年(ESD)」が開始され、地球規模の課題を知り、様々なアクターと連携し、行動 する「地球市民」のための学習が推進されました。



●学び・参加・行動の拠点「あーすぷらざ」

神奈川県と、KIFの活動も、こうした時代背景の中で様々な動きと呼応しながら行われていました。

KIF設立の基本理念となった「民際外交」は、1975年に神奈川県により提唱されました。国際社会の主役は国家だけではなく、市民、NGO、自治体など多様なアクターであり、課題は国家だけでは解決できないという認識から生まれています。神奈川県は、この時期まで20年以上にわたり、NGO支援や開発教育推進などの政策により人々の参加を促 しながら「民際外交」を発展させていました。県の施策「民際外交」は、「地球規模の課題」「持続可能な開発」「地球市民」というキーワードに象徴される時代の状況と、密接 に関わっていました。

そうした「民際外交」の理念と実践をさらに推進するため、計画され、建設されたのが「神奈川県立地球市民かながわプラザ(愛称:あーすぷらざ)」です。



神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)

あーすぷらざ(以下、ぷらざ)は、1998年2月に、横浜市栄区のJR本郷台駅近くに開館されました。

国際理解や平和をテーマとした展示室、図書・映像資料のライブラリー、ホールや会議室など様々な個人・団体が利用できるスペースを備え、国際理解や国際平和、地球規模の課題について、日々の生活の中で考え、身近なことから行動していくための総合的な施設です。

①子どもの豊かな感性の育成、②地球市民意識の醸成、③県民の国際活動の支援、という3つの目的と、①学習、②情報提供・相談、③NGO・県民の活動のサポート・ネットワークの3つの機能を持ち、現在も様々な活動の拠点となっています。

KIFは、1998年にぷらざ内に事務所を移転、2002年にぷらざが実施する全事業を、翌2003年からは施設管理を含む運営全てを神奈川県から委託され、2006年からは指定管理者として、2011年3月までぷらざを拠点として活動しました。



●より多くの人たちと「地球市民」の輪を広げる

KIFは1980年代から90年代にかけて、国際交流から協力へ活動を広げ、NGOとのネットワークや開発教育におけるノウハウを蓄積してきました。(連載第1回~第3回参照

ぷらざで活動した1998年から2011年にかけては、拠点となる施設を活かし、神奈川県内のより広い地域、子どもから大人まで幅広い年代のより多くの人たちの関心・行動を広げることに力を注いだ「普及」の時期でした。ぷらざへ移転する以前は、拠点「神奈川県国際交流センター」を産業貿易センタービルの1フロアにおいていましたが(1977~1998年)、大規模な施設を運営するようになり、職員数も事業規模もこの時期が最大となって、ボランティアの方々や関係団体など多様な個人・団体との連携が進みました。

ここで、当時の多岐にわたる事業のうち、いくつかご紹介しましょう。



①子どもたちを対象に

・こどもの国際理解展示室 ~展示施設を利用した学びの提供~
ぷらざの大きな特徴は、子どもたちを活動の主要な対象としていることです。
アジアを中心とした各国の家や生活道具、民族衣装などが展示されている「こどもの国際理解展示室」などの常設の展示室があり、展示物を実際に手に取ることができる「ハンズ・オン」という手法で設計されています。

ワークシートを作成したり、ワークショップやイベントを組み合わせるなど、子どもたちが主体的に参加して学び、考えることを促す学習ツールの開発も行いました。博物館関係者・国際理解教育の専門家と連携して展示施設を活用した学びを提供したことは、現在のKIFにとっても大きな経験となりました。



こどもの国際理解展示室
写真はタイ・アユタヤで暮らす子ども「チャークリン君」の家。高床式の家で使う水がめ、王様の写真など環境・生活・文化を体感できるよう工夫している。

おしゃべりワールド
展示と関わる国出身の留学生などを講師に、民族衣装など身近なものを材料に話しながら人と生活・文化に親しむイベントを定期的に実施した。

小学生を対象とした国際理解ワークショップの一例

高校生の校外学習受入


②県域に広げる・届ける

県内各地の幼稚園・小学校・中学校から高校、養護学校など様々な年代の子どもたちがクラスや学年単位でぷらざを訪問する校外学習プログラムも実施しました。KIFがぷらざの事業運営を開始した2002年度には、170校計1万人を超える子どもたちが校外学習としてぷらざを訪れています。子どもたちの発達段階や学びたいテーマに応じた学習プログラムを教員と相談して構成し、多くのボランティアの方々と共に実施しました。

来館できない子どもたちのためには、館外で利用できる教材の作成と貸し出しも行いました。子どもたちが親しみやすい切り口で国際理解・環境問題などぷらざのテーマに沿った内容を紹介する「あーすぷらざかべ新聞」も発行し、神奈川県内の全ての小・中・高・養護学校に配布して、校内の掲示板にスペースを確保してもらいました。

スタッフが県内の小学校などを訪問して行う「あーすキャラバン隊」も好評でした。小学校2年生の教科書で多く扱われるモンゴルの民話「スーホの白い馬」を題材に、本物の馬頭琴や衣装を使った授業は特に人気で、数多く実施されました。



ペーパークラフト「世界の家シリーズ」
子どもたちがアジアの文化に自然に関心が持てるよう、あーすぷらざの展示室にあるタイやネパールの家を再現したほか、県内の外国人コミュニティやNGO と相談して県内の外国人住民の出身国の家を主に企画。集文社から市販された。
(現在は絶版)

ボックス教材( 写真は「ネパール・ボックス」)
国際理解教育の専門家と協力し、各国の衣装、食器、日用雑貨など身近なものを箱に詰めて教材とし、学校などに貸し出した。アジア圏に広がる「カレー」を素材に、国を超えた文化のつながりを紹介した「カレー・キット」も開発。

あーすぷらざ かべ新聞
あーすぷらざのテーマに沿って、外国の遊びや地球環境などをテーマに作成。
写真は第1号(2006年) 。アジア各国のじゃんけんを紹介。


③学びの担い手を支援する
~中間支援組織として、学校とNGO / NPOをつなぐ
~リソースセンターとして、情報・ノウハウを広げる


ぷらざ開館2年後の2000年から、小学校から高校で「総合的な学習の時間」が開始されました。「総合学習」では国際化への対応も大きなテーマとして掲げられましたが、教員にとっては内容の設定、利用できる教材・素材や協力を依頼できる団体など外部のリソース、子どもの自主性を中心とした学習の方法など、それまでにない情報や経験が必要とされ、教育現場では戸惑いが広がっていました。一方で、国際理解や途上国支援・環境問 題や平和などに取り組むNGO / NPOにとって、学校現場や子どもたちと関わる機会が乏しかったのです。

そこでKIFは、開発教育の教材や手法、講師や関連団体に関する知識・ネットワークや、自治体とのつながりを活かし、市町村の教育委員会など教育行政機関とも連携しながら、学校とNGO / NPO関係者をつなぐ中間支援組織としての役割に重点を置くことにしました。(※2

また、ぷらざの、書籍・教材やNGOのニュースレターなどを収集・提供する「情報フォーラム・映像ライブラリー」機能を最大限に活かして、様々な情報・資料、ノウハウを提供し、関係者との連携を広げていきました。

・地球市民学習リーダーセミナー
「地球市民学習」の内容を広く紹介し、実践に必要な情報と具体的なノウハウを提供。市町村教育委員会と共催する地域セミナーも実施し、「貿易ゲーム」などの参加型学習を紹介。

・地球市民学習教材コーナーの開設(あーすぷらざ情報フォーラム内)
教員等が教材や参加型学習の手引きを手に取り、相談できる拠点づくりがねらい。ウェブ上に「地球市民学習情報源」ページを開設、情報発信。

・学校とNGOをつなぐ学習リソース調査
NGOが学校に提供できる教材・講師派遣などの情報を集め、ウェブと報告書で公開。



地球市民学習相談パンフレット(2006年版)
KIFが提供できる地球市民学習に関わるメニューを一覧にし、県内の教育機関・NGO等に配布した。

地球市民学習リーダーセミナー(2007年)
横須賀市での開催の様子。難民として来日し、定住した2世の少年が家庭・学校などで直面する課題にどのように関わるかをテーマとしたワークショップ「ビン君に何が起こったか」を実施。参加型学習の代表的な手法「ランキング」を使って話し合っている。


④協働の広がり

・NGO / NPO、学生などと「共催事業」を実施
ホールや研修室などを活用した「共催事業」の募集・実施を行い、より多様な団体と協働できる機会を探りました。アジアの発展途上国の貧困や開発の問題を学んだ高校生が、成果を広く伝えるために企画・実施した「ワンコインコンサート」など、学びを行動につなげる活動を積極的に支援しました。

・あーすフェスタかながわ ~神奈川県・民族団体と共に~
2000年には、神奈川県の呼びかけで、多文化共生をテーマとしたお祭り「あーすフェスタかながわ」が、ぷらざを会場に始まりました。県内に暮らす韓国・朝鮮、中国、インドシナ3国などの民族団体が実行委員会を組織し、企画の段階から外国人住民が中心となり、多くのボランティアと共にイベントをつくりあげる過程を含めて相互理解を進めていることに大きな特徴があります。

KIFは開始時からこの実行委員会に参加し、2004年からは2010年までは神奈川県と共同で事務局を担いました。(現在も実行委員会・企画委員会に参加)

あーすフェスタ開始に先立つ1996年、全国で最も早く川崎市で「外国人市民代表者会議」が設置され、神奈川県でも1998年から「外国籍県民かながわ会議」を設置しました。「あーすフェスタ」は、日本人による外国人住民支援から外国人住民の参加による地域づくりが始まったこの時期を象徴する貴重な催しであり、KIFが現在進めている外国人コミュニティとの連携などの事業にもつながっています。



あーすフェスタかながわ2004のちらし


⑤親しみやすい「入口」を

その他、より多くの人が「地球規模の課題」関心をもつ入り口として、写真展・映画会・料理・踊りなど親しみやすさ・新たな切り口を工夫した文化講座や事業を多数行いました。



企画展示(左・中央)
「地球108の顔」(2006年)、「世界の自転車タクシー展」(2009年)
世界の料理教室(右)
県内で暮らしている外国出身の方を講師に、文化紹介を交えながら実施。


⑥グローバル化の中で、「国際理解」をとらえなおす

グローバル化の中で、それまでの「国際理解教育」を再考する場も持たれました。
1990年の入管法の改正以降、それ以前とは異なる規模でアジア・南米などの出身者の定住が進み、教育現場に外国につながる子どもたちが増えてきました。日本語の力が充分でなく、日本の教育や生活に関する制度の理解が充分でないなどの理由で不利な立場に置かれる子どもと家族の状況を把握し、NGO等と連携して対応を始めたのもこの時期でした。

・教員、NPO、教育行政関係者、研究者による研究会・公開フォーラム

2003年度には、グローバル教育と多文化共生教育のインターフェイス(節合)をテーマにした研究会を設置し、報告書を発行しました。 当時、外国人児童生徒を対象とする多文化共生教育と、日本の児童生徒を対象とする国際理解教育とは別の枠組みとされ、接点をもたないまそれぞれ実践されていました。 国際理解教育は、日本人の両親を持ち、日本で生まれ育ち、母語を日本語とする子どもを前提として組み立てられ、海外文化の紹介という形で実施されることが多かったのですが、学校現場に外国につながる子どもが増える中、実践を紹介し合い、将来を展望しようとする試みでした。

研究会には教員、NPO、教育行政、研究者に参加していただき、実践報告と討議を行いました。この研究会の記録と、関連する資料や論文等を掲載した報告書を発行し、関係者に広く普及しました。 研究会の成果を発信した公開フォーラムでは、参加者の実践につながる教材や資料を展示し、フォーラムをきっかけにぷらざを継続的に活用してもらう工夫をしました。



研究会の概要
報告書「グローバル時代の国際理解教育に向けて」より)

ぷらざを拠点に活動した時期、今回ご紹介した以外にも「多文化共生」に関わる事業を多数実施し、現在にもその蓄積が活かされています。詳しくは、別の回でご紹介します。

次回は「国際性豊かな人材の育成~大学生を対象とした事業」をご紹介します。)



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※1 ミレニアム開発目標(MDGs)と持続可能な開発目標(SDGs)
2000年には国連ミレニアム・サミットが開かれ、2015年をゴールとして貧困の撲滅、教育の充実、ジェンダーの平等、環境の持続可能性などを目標とした「ミレニアム開発目標(MDGs)」が設定されました。この時期のあーすぷらざやKIFの活動も、そのような時代背景を反映しています。MDGsは取組の中心は発展途上国に関わるものでしたが、後継として2030年をゴールに開始された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、グローバル化の進展を反映して、先進国も含めた全世界の取組であることが強く意識され、都市問題、産業やインフラ、生産と消費に関わる課題の解決が目標として設定されています。
参考:
ミレニアム開発目標
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/about.html#background
持続可能な開発目標(SDGs)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/doukou/page23_000779.html

地球規模の課題と平和
国境を超えた地球規模の課題については、1990年代以降、環境問題との関連で注目されることが多いのですが、1960~70年代、核兵器・平和との関連で強く意識されたことも忘れてはならないでしょう。1962年のキューバ危機に象徴されるように、国家間の戦争が核兵器の使用に結び付いた時、それは国家の問題にとどまらず、地球全体を破滅させることになります。民際外交の開始もこうした時代背景と深く結びついています。
あーすぷらざには「国際平和展示室」があり、過去から現代の戦争について、また持続可能な世界を脅かす環境問題などの課題について展示されています。今回は詳しくご紹介できませんでしたが、KIFも、紛争・平和などに関わる事業を多数実施しました。


※2 中間支援組織
KIFは、「県」という広域を対象とし、自治体という公的機関とNGO / NPOのような民間の非営利組織の性格を併せ持つことから、設立当初から地域と地域、行政とNGO / NPO、実践者と研究者など、その時々で異なる主体と協力しあい、つながりながら様々な課題に取り組むことを強く意識して事業を行っています。


※3 あーすぷらざの運営
あーすぷらざは2011年以降、「公益社団法人青年海外協力協会」が神奈川県の指定管理者として運営しています。今回の記事でご紹介したものと類似する事業でも、現在は内容が変更されています。

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