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かながわ国際交流財団 設立40周年

1977年の設立以来、2017年で40周年を迎えたかながわ国際交流財団(KIF)。
どんな時代状況の中で、どのような活動を行ってきたのでしょうか。
主な事業をご紹介しながら振り返り、将来を展望したいと思います。

KIFの歴史は、多くの方のご協力で進められてきました。長期間、多岐にわたる事業の中で、現在のスタッフには見えないことも多いと思います。

当時の様子についてのコメントや、お気づきの点などありましたら、ぜひこちらへご連絡ください。

※一部のスマートフォンでは、文字が正しく表示されないことがありますので、その場合にはPCで閲覧していただくようお願いします。

第2回 交流から協力へ〜「南北問題」への取組 

第1回では、1977年の神奈川県国際交流協会(KIA)の設立から、「人と文化の交流」をテーマに事業が実施された約10年間を取り上げました。今回から次回にかけて、1980年代後半から90年代後半のKIAの事業をご紹介します。 <関連年表リンク>
※写真はクリックすると拡大します

交流から協力へ~南北問題への取組

この時期は、東西冷戦体制が終焉に向かう一方(1989年にベルリンの壁が崩壊)、先進国と開発途上国の経済格差、いわゆる南北問題が大きな国際的課題になっていました。円高が進み、当時の日本の好調な経済はのちに「バブル景気」と呼ばれました。開発途上国への国際協力は日本の国際施策の大きな柱になり、1991年には政府開発援助(ODA)の総額が世界一になりました。
一方国内では、好景気下の労働力不足や途上国との経済格差を背景に、1990年の入管法改正により「定住者」の在留資格が創設され、就労や国際結婚などで、外国人住民が急増しました。

「民際外交」も提唱から約10年がたつ中で発展し、神奈川県でも開発途上国の人びとや国内の外国人住民が抱える様々な困難に対する協力「民際協力」「内なる民際外交」として、県の施策の大きな柱とするようになりました。
これに伴い、KIAでも「交流から協力へ」を事業方針とし、異文化理解・親善交流から、南北問題や外国人住民支援への取組を事業の中心として明確に位置づけるようになっていきました。

また、この時期数多くのNGO(※)が設立され、活動するようになっていました。
神奈川県庁とKIAは、様々な事業をNGOと協力して行い、またNGOに対する支援として、活動の場の提供資金助成などを事業化していきました。



「民際協力」とKIA

神奈川県による「民際協力」は、①啓発、②技術協力、③NGO活動への支援の、3つの方法で進められました。

その中で、KIAで実施したのは、主に次のような事業です。

①啓発
・シンポジウム、セミナー
それまで実施していた国際理解講座の内容をアジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国中心とし、国際協力をテーマとしたシンポジウムやアジアの言語を学ぶ「第三世界言語セミナー」を実施
・難民支援等のためのチャリティコンサート、チャリティウォークなどの普及イベントを実施、収益をNGOへ寄付
開発教育教材(※)の作成・普及
「たみちゃんと南の人びと」シリーズ、貿易ゲームなど
アジア諸国へのツアー実施
障害者と健常者が協力しあう「タイ・コワーク(Co-work)ツアー」、NGOの活動現場を訪ねる「バングラデシュ・スタディツアー」など

②技術協力
神奈川県国際研修センターの運営
1987年、神奈川県が技術協力充実のため開発途上国からの研修員の長期滞在施設を開設し、その運営をKIAが受託

③県民・NGO活動への支援と相互交流
・NGO・市民グループの活動スペース(KISコーナー)設置
・NGOとの共同によるイベント・シンポジウム等の企画・実施
・「民際協力ネットワーク」など県民・NGOの連携を促進するネットワークづくり
・NGOへの資金助成「民際協力基金」の運営

当時のニュースレターでは、事業方針の転換を「アジアにも目を向けよう」というタイトルで紹介しています。



1988年4月、
ニュースレターHello Friends 108号より

ここから、3つの事業についてご紹介します。



開発途上国の飢餓や貧困はなぜ?~開発教育教材の作成・普及

◎「たみちゃんと南の人びと」シリーズ

「たみちゃんと南の人びと」シリーズは、中学2年生の女の子「たみちゃん」が、貧困や環境、難民、外国人労働者など、世界の様々な課題について、仲間と一緒に試行錯誤しながら学び、考えていく過程を描いた冊子です。内容の企画・執筆はそれぞれのテーマに取り組むNGOと共同で行われました。
親しみやすい絵本のスタイルを取り、問題の背景を説明する統計資料や、より深く知り行動したいと考える人のための参考資料の一覧、課題に取り組むNGOの紹介などが盛り込まれていました。
1985年に神奈川県が発行を開始し、1989年発行の第5作からKIAが引き継いで、合計10冊が発行され、無料で配布されました。



「たみちゃんと南の人びと」シリーズ Part1
(1985年 神奈川県発行)

「たみちゃんと南の人びと」シリーズ Part5
「カンボジアの少女ソナ」(1989年 KIA発行)

「たみちゃんと南の人びと」シリーズ 一覧
【神奈川県発行】
1.たみちゃんと南の人びと(1985年)
2.たみちゃんと80日間世界一周(1986年)
3.たみちゃんの日記(1987年)
4.たみちゃんのスタディツアー(1988年)
【KIA発行】
5.たみちゃんとカンボジアの少女ソナ(1989年)
6.たみちゃんと熱帯林(1990年)
7.たみちゃんと4+1の友だち(1991年)
8.たみちゃんと外国人労働者(1992年)
9.たみちゃんとエイズについて考える(1993年)
10.たみちゃんの時間のふしぎと南の知恵(1994年)

7は子どもの権利条約、10は先住民族などの価値観がテーマ。



1980年代、アフリカで大規模な干ばつが起こり、飢餓と共に多くの難民が発生し、大きなニュースになりました。1次産品や原油の価格が暴落し、他の開発途上地域でも貧困・飢餓など、多くの人びとの生命が危機にさらされました。
こうした事態の要因として、植民地支配などの歴史的な要因や世界規模の産業・経済の構造、先進国と途上国との間の食糧やエネルギー利用の格差など、先進国の住民の生活様式が開発途上国の貧困や環境破壊に大きく関わっていること、また充分な検証を経ない援助が現地の社会のバランスを崩し、失業や貧困の要因になるケースがあることなど、途上国の貧困が、先進国の日常と深いつながりがあることが、様々な研究やNGO等の活動により次第に明らかになっていきました。
アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどの開発途上地域の状況は、現在と比べるとよく知られておらず、偏見もありました。



「たみちゃんと南の人びと」PART1より。
貧困の責任はその当事者ではなく、構造の中にあるのではないか?という疑問を投げかけた。

問題の背景をわかりやすく伝え、共有できるツールは当時とても少なく、親しみやすい体裁でデータや行動例も入った「たみちゃんシリーズ」は広く受け入れられ、後に市販もされました(明石書店刊、現在は絶版)。

◎貿易ゲーム

KIA発行の教材の中で、もうひとつ広く普及したのが「貿易ゲーム」です。イギリスのNGO「クリスチャン・エイド」が作成した教材を、日本語に翻訳・出版しました。
ゲームの参加者が国に見立てたグループに分かれ、それぞれが生産する製品の原材料を紙、技術やインフラを定規やはさみなどに置き換えて、貿易を疑似体験するこのゲームは、世界の国々がどのような経済の仕組みの中に置かれているか、それぞれの国の立場に立って体感できるもので、経済のグローバル化の問題点や国際協力のあり方などを考える教材として、現在でも学校教育・社会教育の場で広く使われています。
KIAでも、「貿易ゲーム」を活用したセミナーや講師派遣などを様々な事業の中で行いました。



貿易ゲーム(1995年発行)。
日本語版では砂糖・バナナのフェアトレードに取り組むNGO「日本ネグロスキャンペーン委員会」の事例を紹介した。
後に開発教育協議会(現開発教育協会)と共同で「新・貿易ゲーム」を発行

「貿易ゲーム」出版に先立ち行われた開発教育スタディツアー(イギリス・オランダ)。
OXFAM,NOVIBなどのNGO、開発教育センター、フェアトレードショップなどを訪問

KIAは、「たみちゃんと南の人びと」「貿易ゲーム」以降も、いくつかの教材を作成・普及しました。それによってKIAは、世界で起きている様々な問題を多くの人たちが共有しやすい形で提示し、考えを深め、解決につなげる材料とすることを目指しました。



人がつながる場づくり 「KISコーナー」

◎KISコーナー(Kanagawa Information Station)開設

また、この時期の重要な事業としてもうひとつご紹介したいのが、NGO・市民グループの活動のためのスペース、KISコーナーです。NGO活動の支援と相互交流の促進を目的に、1987年に開設されました(KIA事務所に隣接)。

開設の背景には、前年の国際平和年(1986年)に多彩な事業を実施した「かながわ国際平和年推進協議会」の提言がありました。「平和年」の活動の中では、難民支援などと共に、「平和は戦争がないだけの状態ではなく、貧困・差別など人間を抑圧するものがない状態」という考え方のもとで、国際協力や民族差別、環境破壊や福祉などの問題も大きく取り上げられました。

①情報交換の場 ②作業の場 ③企画の場 として3つの機能をもたせ、NGOや市民グループが発行するニュースレターやイベントのチラシなどを設置し、無料の印刷機やイベントの準備作業に使える道具を置き、複数のグループがミーティングを行えるスペースを設けていました。



KISを拠点に準備・開催された主な事業
・チャリティウォークかながわ(1987年~)
・アジア理解のネットワーキング展(1987年~)
・アジア市民フォーラム(1988年)
・かながわ国際識字フォーラム(1990年) ・わいわいトーキング「地球どんぶり」(1991年~)
・AIDS文化フォーラム(1994年8月)
・PATIO(KIS発信のニュースレター)の発行



わいわいトーキング地球どんぶり

KISを拠点に準備が進んだ
「アジア市民フォーラム」の採録
「アジアの草の根ネットワーキング」
(アジア市民フォーラム編、学陽書房))、
KISのニュースレター「PATIO」

KISコーナーでは、多様な個人や団体が出会い、つながる場となることを目標として運営されました。催しの多くが複数の団体による実行委員会形式で実施され、個別の事業の成果を出すだけでなく、情報やイベントをきっかけにして様々な人が出会い、問題意識を共有して一緒に考えるつながりをつくること、そうしたつながりを神奈川という地域の基盤にすることが意識されていました。

情報や仲間を求めてやって来た個人、海外協力NGOや神奈川の地域の市民グループ、県庁の若手職員のグループなど、様々な立場の人たちが連日KISに駆けつけ、深夜まで語り合いました。
型にはまらない自由な雰囲気の中で、集まった人が人を呼び合い、個人がやりたいこと・できることを持ち寄って様々な活動ができあがっていったと言います。
海外協力のNGOと、神奈川県内の地域で環境問題・消費型社会の改善や定住難民・外国人労働者と関わる活動に取り組んでいたグループとが出会い、互いの実践を学び合う中で、共通する状況や課題があることを実感していったことも大きな収穫でした。

海外と国内双方でインドシナ難民の支援を行っていた日本国際ボランティアセンター(JVC)の神奈川事務所が置かれ、KIAの職員と共に様々な人や団体をつなぐ役割を果たしたことも見逃せません。

KISコーナーのコンセプトと活動実績は、1996年に神奈川県が開設し、後に全国のサポートセンターのモデルとなった「かながわ県民活動サポートセンター」(横浜市神奈川区)の計画にも活かされたといいます。



課題を共有し、ともに考える

今回ご紹介した事業は約20年前に実施したものです。

「南北問題」「第三世界」という切り口で考えられていた貧困・飢餓、紛争・戦争、環境破壊、人権侵害など多くの課題は、徐々に南-北、途上国-先進国という二項で分けるのではなく、地球規模の相互関係の中でおこる「地球規模の課題」である、というとらえ方へ発展していきました。
バブル経済の時期にあたる当時と異なり、現在では日本国内の貧困や世界的にも国内格差が大きな問題になっています。社会が急速に変化し、膨大な情報が行き交う中で、取り組むべき課題や、その原因や解決についても考え方はますます多様になり、共有が難しくなっていく印象があります。

私たちKIFは、そうした困難な状況の中で、課題の解決をめざして集い、模索しながら取り組むNGOの活動を応援しています。

また、KIFの事業の中には現在も、21世紀かながわ円卓会議、青少年国際セミナーなど、課題を共有し、対話の場をつくることを目的のひとつとした事業があります。今後も、グローバル化の中で、人間を大切にし、多様性が尊重される豊かな社会について考えていく場づくりを継続していきます。

次回(第3回)は、1980年代後半~90年代の「内なる国際化」への取組と、NGO支援「かながわ民際協力基金」の設置についてご紹介します。



参考資料

・神奈川県国際交流協会ニュースレター Hello Friends
・身近なところから平和を かながわ国際平和推進協議会報告書 (1987年)
・進めましょう 私たちの国際協力=民際協力 神奈川県庁発行
・アジアの草の根ネットワーキング 学陽書房 1990年
・ワークショップ日記(木下理仁さんのブログ)
http://www.geocities.jp/k_de_room/kino-materials.html#td-game
https://www.facebook.com/workshop.diary/
・開発教育協会ウェブサイト http://www.dear.or.jp/



用語説明

第三世界
東西冷戦の影響下、欧米先進資本主義諸国 (第一世界) 、社会主義諸国 (第二世界) に対してアジア・アフリカ・ラテンアメリカなどの開発途上国は「第三世界」と呼ばれました。

NGO
非政府組織(Non Governmental Organization)の略。地球的規模の課題(開発・環境・人権・平和など)を解決するために 非政府かつ非営利の立場で活動する団体を指す。

開発教育
かつてアジア、アフリカ等に植民地を持っていた欧米諸国で始められた、南北問題・開発問題などを中心テーマとする教育・学習活動。狭義の開発だけでなく、途上国の文化、貧困、環境破壊、難民、人権など学習テーマとして取り上げられる事柄は多岐にわたるが、いずれの場合も単にその問題を知るだけでなく、自ら考え、解決に向けて行動することを重視する。神奈川県での開発教育への取組は早く、1980年には神奈川県、横浜市、横浜YMCA、開発教育研究会、KIA等の主催により「開発教育シンポジウム~人類共存の道を求めて~」が行われた。

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