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神奈川県内の学校で学ぶ外国につながる子ども達が増え、文化や宗教的背景も非常に多様化しています。宗教上の配慮が特に必要なイスラームの子どもたちとの関わりについて、主なポイントをまとめました。
イスラームの戒律は宗派や出身国・地域等によって異なる場合があります。また、宗教規範にどの程度まで厳格に従うかは保護者の考え方により大きく異なります。まず、本人と保護者の意向を確認し、文化や宗教を尊重し、配慮すべきこと、できることについて話し合ってみてください。

目次

※本パンフレットでは、「マスジド」( モスク) 、「クルアーン」(コーラン)等、アラビア語の発音に近い表記を使用し、また、「ムスリム」(イスラム教徒)、「イスラーム」(イスラム教)等、アラビア語の表現に沿った用語を使用しています。

1 食事について

「ハラール」と「ハラーム」について

ハラール・・・イスラームにおいて許された物や行為
ハラーム・・・イスラームにおいて禁止された物や行為

※疑わしいものは避けるべきとされています。

食べられるもの(ハラール)

ハラームのもの以外はすべて飲食可能です。
野菜、果物、穀物、牛乳、鶏卵、大半の魚類をはじめ、イスラーム法に則って処理された豚肉以外の食肉など、実に多様な種類の食材を食べることができます。

食べられないもの(ハラーム)

①豚肉およびその加工食品

②イスラーム法に則った処理をされていない食肉およびその加工品

※①②の加工品にはハム、ソーセージ等に加え、動物由来のゼラチン、ショートニング、乳化剤、コンソメやエキスなどの添加物も含まれます。

③酒類(アルコール)

※料理酒、みりんのほか、微量のアルコール成分が含まれる醤油等の調味料をハラームと考える方もいます。

給食等での配慮

材料や調味料などに配慮すれば食品アレルギーの除去食のように対応できます。メニューに応じて主食や牛乳は給食で、おかずは持参するなどの工夫もできます。給食費は食べた分だけ計算して集金している学校もあります。

【食事に関する配慮・工夫】

・小学校のベテラン調理師さんが献立を研究してくれました。肉料理を魚に置きかえたり、アルコール成分が入っていない調味料を使うなどの工夫のおかげで、毎日給食を楽しめるようになりました。
・修学旅行前に、食事の内容が配布されたので、事前に変更をお願いできて安心でした。
・町内会の行事で豚汁が振るまわれた時、別の鍋で野菜のみのものを作ってくれました。

ラマダーン(断食月)について

1年に1回、1か月程度の断食期間があり、健康なムスリムは夜明けから日没まで、水を含め一切の飲食を行うことができません。年少者は例外となっていますが、保護者に何歳から始めるかを確認し、体育の授業、炎天下での行事などでは健康上の配慮が必要になります。

ラマダーン期間

年により異なるので、インターネット検索などで調べてください。

【ラマダーン中の過ごし方】

・給食時間は図書室で本を読んで過ごすことを認めてもらいました。でも教室に残り給食当番を担当したり、食事中の友達とおしゃべりを楽しむことも多いようです。
・女子は生理中、断食ができません。でもまわりに分からないように断食しているふりをして、隠れて食べるなど工夫していました。
・水筒を持参し、本当に我慢できない場合は飲むように伝えました。でも、うがいをする、顔を洗うことで対処できました。
・一日何も口にしないのは心配だという学校と話し合い、非常食は携帯させていました。
・夜明け前に朝食を食べる、日没後の食事はお腹に負担が少ない食材を選んで食べるなど健康管理をきちんとしています。
・ラマダーン明けの「イード」はイスラームにとって大切なお祭りです。その日だけは学校に許可をもらってお休みをしていますが、定期テストなどと重なる時は学校を優先しています。

2 服装について

女子の服装

・思春期以降は顔と手以外を隠し、体型が分かりにくい服装が好まれます。スカートの下にジャージを着る、男子生徒用のズボンをはくなどの方法があります。
・ヒジャーブ(スカーフ)を使い始める年齢、服装についても保護者の意向を確認しましょう。


体育の授業

・体操着やジャージは、長袖・長ズボンを選ぶことがあります。

水泳の授業

・男女が一緒にプールに入ることに抵抗があるため見学を希望することがあります。
・男子は膝頭からおへそまでを隠したいと希望することがあります。
・女子は布面が多い水着や、帽子と水着が一体となり、ゆったりとした作りの「ハラール水着」を希望することがあります。

【子どもを日本の学校に通わせて】

・娘本人の希望でヒジャーブを使用しており、初めはいじめが心配でした。しかし断食や礼拝をすることに、「すごいね」「意思が強いね」と逆に一目置かれていたようです。
・お寺や神社への「参拝」はできませんが、「見学」はさせたいです。文化遺産の歴史を学ぶことは大切だと思っています。
・娘は活発で運動好きなので、空手を習っています。オリンピックで活躍するヒジャーブを被った女性選手を見て感激していました。
・娘が中学3年生のときに私立高校を見学しましたが、宗教上の配慮をお願いしたら断わる学校がいくつかありました。宗教の授業があるキリスト教や仏教系の高校もあり、志願先を決めるのに苦労しました。

3 お祈りについて

・イスラームでは1日に5回礼拝を行い、時間帯は毎日異なります。目安として12時から13時、15時から16時に一回ずつ、学校では昼休み前後や部活動中が礼拝の時間になります。
・お祈りの前に手や口、足などを水で清めるので、毎回10分前後の時間が必要です。
・人が通らない静かで清潔な場所、空いている部屋などを確保できると安心です。
・お祈りを始める年齢は家庭によって異なりますが、練習として7~9歳で始めることが多いです。

【学校との関係づくり】

幼稚園の発表会で、子どもの配役が孫悟空の猪八戒になってしまったことがあります。先生に相談したところ、直前に龍役に変更して、衣装なども作り直してくれました。その経験から早めに先生に伝えなければ、と小学校入学前に校長先生に面談をお願いしました。

4 学校生活での留意点

ここで挙げるのはごく一部の例ですが、本人や保護者の意向を確認し、安心して学校生活を 送れるように説明をしましょう。

授業

・体操着に着替える場所や服装などの確認をしましょう。
・豚や犬が登場する物語を取り上げる際には注意が必要です。

宗教的な要素のある活動

端午の節句、七夕、盆踊り、お月見、クリスマス会、節分などは文化・伝統にふれる機会ですが、宗教行為と見なして行事に参加させたくないと考える保護者もいます。

修学旅行等

いつもと行動リズムが異なるため、食事内容やお祈りの時間の確保など事前に確認しましょう。

入浴

・同性でも裸を見せられないため、別室でシャワーを浴びるなどの対応が必要です。

仏教寺院等の拝観

・施設への入場や参拝への参加に対する考え方を事前に確認しましょう。

身体測定・体調管理

・異性の医師が対応する場合の配慮も必要です。
・アルコール消毒をできるかどうかも確認してください。

持ち物

・豚皮が使用されているランドセルは避ける人がいます。

5 まわりの理解と配慮

イスラームについて平和と程遠いイメージを抱いている方がいるかもしれません。戦争やテロが起きると大きく報道される半面、日常生活で得られるイスラームの情報が少なすぎることが一因でしょう。偏った報道の結果、日本の学校で学ぶムスリムの子どもたちが差別や偏見の対象となることがあります。異なる外見や服装を理由にいじめを受けることもあるようです。
自身の宗教実践が周囲と異なることに悩み、迷っている子どもたちもいます。「厳格な戒律があるムスリムに生まれて可哀想」というような「親切心」から出た発言によって、自分が大切に思う価値観を否定されたと感じ、かえって傷つく子どもたちもいます。
文化や宗教が異なる子どもや家族と関わることは難しく思えるかも知れませんが、自分の価値観だけで判断しようとするのではなく、異なる価値観を理解する姿勢をもつことが大切だと思います。
もう一つ重要なのは、イスラームといっても非常に多様であるということです。イスラームの歴史は長く、時間をかけて世界中に広まり、イスラームの実践も多様化しました。出身国や家庭や個人によって考え方が異なるのはごく自然なことです。望ましい服装や食事の規定について「きちんと守りたい」人もいれば「無理をしない範囲で」と考える人もおり、「最適」と思う基準はそれぞれ異なります。
学校側が一律の基準を設けて対処する、ということは、おそらく現状に馴染みません。できれば子どもや保護者から直接話を聞き、何を不安に感じているのか、どういう配慮を必要としているのか、個別に確認し対応することが大切になります。学校だけでの対応が難しければ、地域の支援者や団体、外国人コミュニティに協力を求めることもできるでしょう。
日本の学校では、多様な文化的・宗教的背景をもつ子どもたちが増えています。そうした子どもや保護者に対する配慮に加えて、クラス全体への説明や働きかけを進め、学校全体で見守る・受け入れる姿勢を築いていくことが、今後ますます重要になってくるでしょう。

(千葉大学/国際社会学・ムスリム移民研究 福田友子)

6 参考情報

イスラームとは

・キリスト教、仏教とならぶ世界三大宗教の一つ。イスラームの信者は約15億人、キリスト教に次いで世界で2番目に多く、その数は年々増加している。日本にも推定で約11万人のムスリムがおり、神奈川県内には礼拝施設のマスジトやムッサラー(小規模な礼拝施設)が3か所ある。
・イスラームの基本教義を簡潔に表現した『六信五行』という言葉がある。六信とは、アッラー、天使、預言者、啓典、来世、定命の6つを信じること、また、五行とは、信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼の5つの行為を義務として果たすことである。

イスラームの子どもたちのつながる国・地域

世界のムスリム人口を見ると、インドネシア、パキスタン、バングラデシュなどが上位となっている。これらの国出身の家族は神奈川県にも多く住んでおり、その数は増加している。また、その他の国・地域出身や日本国籍であってもムスリムの方がいるため、私たちの周りに宗教的配慮が必要な人は意外に多い。


参考URL等

・東京ジャーミイ・トルコ文化センター http://www.tokyocamii.org/ja/
・日本イスラーム文化センター http://www.islam.or.jp/
・宗教法人日本ムスリム協会 http://www.muslim.or.jp/

発 行:

TEL:045-620-4466 FAX:045-620-0025
e-mail: tabunka@kifjp.org URL: https://www.kifjp.org/

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