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第4回 「湘南国際村」を拠点に研究・⼈材育成・交流 かながわ学術研究交流財団の事業 その1(1992〜1998 年) « 公益財団法人 かながわ国際交流財団 KANAGAWA INTERNATIONAL FOUNDATION
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かながわ国際交流財団 設立40周年

1977年の設立以来、2017年で40周年を迎えたかながわ国際交流財団(KIF)。
どんな時代状況の中で、どのような活動を行ってきたのでしょうか。
主な事業をご紹介しながら振り返り、将来を展望したいと思います。

KIFの歴史は、多くの方のご協力で進められてきました。長期間、多岐にわたる事業の中で、現在のスタッフには見えないことも多いと思います。

当時の様子についてのコメントや、お気づきの点などありましたら、ぜひ当財団へご連絡ください。

※一部のスマートフォンでは、文字が正しく表示されないことがありますので、その場合にはPCで閲覧していただくようお願いします。

第4回 「湘南国際村」を拠点に研究・⼈材育成・交流 かながわ学術研究交流財団の事業 その1(1992〜1998 年)

かながわ国際交流財団(KIF)は、2007年に(財)神奈川県国際交流協会(KIA)と(財)かながわ学術研究交流財団(K-face=ケイ・フェイス)の2つの財団法⼈が統合して発⾜しました。
この連載の第1回から第3回までは、前⾝のひとつであるKIAの設⽴(1977年)から、「⼈と⽂化の交流」に始まり、「南北問題」「内なる国際化」に取り組んだ1990年代後半までをご紹介しました。
第4回・第5回は、KIFのもうひとつのルーツであるK-faceのコンセプトと取組を、現在と関わるものを中⼼に振り返っていきます。
<関連年表リンク>
※画像はクリックすると拡⼤します。⼈物の肩書は当時のものです。

●「湘南国際村」をご存じですか?

湘南国際村は、三浦半島のほぼ中央部、葉⼭町と横須賀市にまたがり、富⼠⼭と相模湾をのぞむ景観の地にある多⽬的の区画地域です。現在、総合研究⼤学院⼤学、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)の2つの研究施設のほか、企業や公益団体などあわせて16 の研修施設があります。研究・研修施設のほかに、住宅地や公園なども整備されています。

かながわ国際交流財団(KIF)の前⾝のひとつ「かながわ学術研究交流財団=Kanagawa Foundation for Academic and Cultural Exchange(以下K-face)」は、神奈川県が計画・主導した「湘南国際村計画」の中で、計画の⽬的を達成するためのソフト事業を実施する役割を担うため、1992年10⽉に設⽴されました(設⽴当時の事務所は横浜市内)。

1994年の湘南国際村開村時に村内に移転、2007年に神奈川県国際交流協会(KIA)と統合後は、かながわ国際交流財団(KIF)湘南国際村学術研究センターとして、主に⼈材育成事業、学術・⽂化交流事業を実施してきました。2016年6⽉からは、KIF 本部はこの学術研究センターに置かれています。



湘南国際村センター遠景
(KIF 本部所在地)

【参考】湘南国際村のご案内(日本語・英語・中国語)http://www.shonan-village.jp/



●湘南国際村のコンセプト

「湘南国際村」は、「学術研究」、「⼈材育成」、「技術交流」、「⽂化交流」の4つの機能をもち、国際的研究・研修機関の集積による知的創造と、国際⾊豊かな交流と⾼度な情報の受信・発信が⾏われる拠点をつくるためのプロジェクトとして1985年に基本構想が策定されました。

地域からの国際貢献を⽬指した「湘南国際村」は、国が計画した研究学園都市を誘致するのではなく、地域主導の官⺠協働プロジェクトとして進められたことが特⾊として挙げられます。神奈川県を中⼼に横須賀市・葉⼭町などの地元⾃治体、学識者、住⺠、企業関係者などから意⾒を集めて検討が重ねられ、資⾦⾯でも県・横須賀市・葉⼭町ほか⺠間60社が出資し、K-faceにも1999年まで神奈川県以外の⾃治体や、企業から職員が派遣されていました。
湘南国際村の着⼯は1990年、開村は1994年です。



湘南国際村コンセプト図

湘南国際村関連書籍

湘南国際村は、「緑陰滞在型の国際交流拠点」と表現されます。⾃然豊かな地に、国内外から⼈々が集まり、⽇常の時間を離れて理解と交流を深めたり、意⾒を交わして互いに啓発しあい、さらに⾼度な情報を⽣み出していく場として、あるいは⼤学院レベルの専⾨知を市⺠にひらく⽣涯学習事業を⾏い、国際的にも機能する場として事業を開始しました。
⼤規模な国際会議場やコンベンションセンターが置かれる「みなとみらい」のような「都市型・業務中⼼型」の国際交流拠点も必要ですが、⼀⽅で学術研究や⽂化交流を通じて豊かな⼈間⽣活の実現を⽬指す「滞在・充電型」の拠点をつくり、世界に貢献する…それが計画の出発点でした。



●「⺠際外交」の理念をもとに
〜⼈間と地域を中⼼に、中⻑期的な視野から平和を考える〜


「湘南国際村」計画は、神奈川県国際交流協会(KIA)と同じく、「⺠際外交」を基本理念として構想されました。

東⻄冷戦の影響が⾊濃く残る1975年に始まった「⺠際外交」は、国家間だけでなく、⼈と⼈、地域と地域が結びつくことによる平和を基底に、様々な施策となって推進されましたが、湘南国際村では、地域から直接海外の研究者・研究機関とつながる研究・事業が展開されたのです。

国⺠国家の枠組みを超えた⼈・モノ・カネの移動、世界の産業・⽂化・市場の統合が進む「グローバリゼーション」という⾔葉は1970年代頃から使われるようになりました。1989年の冷戦終結後は市場経済が旧社会主義国や開発途上国にも広がり、特にインターネット等の通信技術が⾶躍的に発達した1990年代以降、様々な領域で進んできました。

1992年に設⽴され、2007年に統合により新財団KIF に活動を引き継いだK-face・KIAの活動はまさにこの時期に⾏われました。現在も加速を続けるグローバリゼーションに対し、様々な問いを⽴て、検討・実践をしてきたことになります。(K-faceが開始し、KIFとなった現在も継続している事業には「国連⼤学グローバルセミナー」「インカレ国際セミナー」「21世紀かながわ円卓会議」などがありますが、これらの事業が国際関係(特に近隣アジア諸国)やグローバリゼーションをテーマとしていることには、このような背景があります)

事業の進め⽅いう側⾯から⾒ると、この時期、神奈川県国際交流協会(KIA)が「南北問題」や「内なる国際化」の分野で県⺠やNGOとともに事業を展開した⼀⽅で、K-faceは、中⻑期的な視点から知を蓄積し、研究・交流という側⾯から「⺠際外交」を担ったと⾔えるでしょう。
⺠際外交を推進した⻑洲⼀⼆知事は次のように語っています。「現に戦争の恐怖や飢餓にあえぎ、⼈間の尊厳を脅かされている⼈々を助けることはもちろん必要です。ただ、そうした難問の解決には、種を蒔き、芽を出させ、⼤きく繁らせなければ緑がつくりだせないのと同様に、息の⻑い知的な作業も不可⽋です。湘南国際村をこうした営みを担える場に成⻑させたいと、⼼から念じています」(1993年/神奈川県庁庁内放送)。

2007年にK-faceとKIAが統合し、現在のかながわ国際交流財団(KIF)となった後も、折々に⽣じる課題に直接取り組むことと、課題に対し専⾨家による検討を踏まえ中⻑期的な視点を提⽰すること、その双⽅を⾏うことは、常に強く意識されてきました。KIF の事業は現在4つの柱で運営されていますが、III 国際性豊かな⼈材育成(特に学術的な側⾯から)、IV 学術・⽂化交流を通じた地域からの将来像の提案は、K-faceにルーツを持つ事業が多くなっています。



●K-face事業展開の⽅針と事業体系(設⽴〜1998年まで)

K-faceは1992年に設⽴され、2007年にKIAと統合するまで15年間活動しました。
財政状況の変化などもあり、199〜1999年度を境に事業の内容が変わっていきます。
まず設⽴当初の活動を⾒ていきましょう。

K-faceの設⽴⽬的は、次の3つでした。

①地域から世界に貢献し、地域社会の発展に寄与すること
②⼈⽂社会科学分野を中⼼とする⼤学院レベルの研究事業を⾏うこと
③研究成果や研究・研修機関の集積を活⽤した⼈材育成・交流事業を⾏うこと


事業展開に当たっては、グローバリゼーションとローカリゼーションの⼤きな潮流の中で、次の2つの理念を事業に反映させることを⽬指しました。

① 地球の未来・⼈類の未来を地域の切り⼝から考えること
②⼈⽂・社会科学分野の学術、⼈材、交流の国際的な活動拠点とすること


事業は、主に次の3つの分野で⾏われました。

①学術研究事業
②⼈材育成事業
③交流事業

3つの分野を相互に連関させ、学術研究事業の成果を⼈材育成・交流に活かすことが意識されました。



●専⾨家・専⾨研究機関とのネットワーク

事業実施にあたっては、質の⾼い内容の維持と、内外の研究機関とのネットワーク形成とが重視され、理事会・評議員会とは別に有識者による企画委員会(委員⻑:細⾕千博国際⼤学教授)が組織されました。
養⽼孟司⽒など著名な有識者を囲む「県内⼤学交流会」や「若⼿研究者交流会」、国際的研究機関との共同研究・研修の検討会、⽶・独・韓国・シンガポール・マレーシアなど各国に研究者や企業関係者などを派遣し視察や意⾒交換を⾏う「湘南国際村海外プロジェクト・ネットワーク・ミッション」など、地域から独⾃のネットワークを築くための活動を活発に⾏い、成果はその後の事業に活かされていきました。
多くの事業が内外の研究機関や経済関連団体などと共催で⾏われ、事業を⼀過性のものに終わらせず、プロセスを共有して、連携する様々な機関とともに成果を浸透させていくことが事業運営に組み込まれていました。



●事業の展開について

(1)学術研究事業

・研究テーマが象徴するもの
研究事業はK-face発⾜以来毎年⾏われましたが、初年度である1993年度のテーマは次のようなものでした。

学術研究事業のテーマ(1993年度)
○「地球化時代とは何か—-国⺠国家の変容」=主査:⽥中直毅(国際政治経済評論家)
○「ボーダレス時代の国家と地域」=主査:細⾕千博(国際⼤学教授)
○「地⽅政府と⺠際外交」=主査:鈴⽊祐司(法政⼤学教授)
○「地球化時代の地域・市⺠」=主査:松⽥義幸(筑波⼤学客員教授)※肩書は当時

「⺠際外交」を端緒とするK-faceが、グローバリゼーションの中での地域や市⺠の役割を強く意識し、課題と取組を分析し、理論づけて施策に反映しようとしていたことが鮮明に表れていることがわかります。

・公募と課題調査研究
1994年度以降は研究テーマを公募したり、特別課題調査研究として継続されました。
公募研究のテーマ:「⺠際外交」「予防外交における市⺠・⾃治体間国際ネットワークの構築」「地球環境時代の多機能・複合型開発の動向」「世界経済のグローバル化とリージョナリズムの役割の研究」など
特別課題研究のテーマ:「東アジア地域ネットワーク」「歴史認識の⽐較研究」「名著と⽣涯教育プロジェクト」「技術移転を通じたアジア⼈の⼈材育成、異⽂化理解、パートナーシップ」「マルチメディア社会における課題と展望」など
研究成果はその後のシンポジウムで報告したり、⼈材育成事業の中でプログラム化されています。また、上記のような研究の成果や国連⼤学グローバルセミナーの内容等は、K-face研究叢書(1996年〜1999年)、かながわ学術情報誌K-face(1994年〜1997年)などの形で発⾏されました。



K-face研究叢書

(2) ⼈材育成事業
⼈材育成事業は、関係機関との連携を活かし、多くが宿泊滞在型で実施されました。

〇企業・⾏政の管理者層、指導者層を対象とした研修
現在と⽐較し、当時の⼤きな特徴と⾔えるのは、企業・⾏政の管理者層・指導者層に向けた研修事業が⾏われていたことです。短期的な利益や実務のノウハウを超え、リーダーシップ、歴史、持続的な経済成⻑、企業の社会貢献など、時代を超えた価値観を指導者層が学び、交流するための場となりました。

<主な事業>
・かながわ・アスペンセミナー(1994〜1998年)※アスペン研究所(本部・⽶国メリーランド州)共催
アスペン研究所が開発した、世界の古典(グレートブックス)を活⽤し、欧⽶でも実施された経営管理者層向け⼈材育成プログラム。統⼀テーマ:「変化の時代のリーダーシップ」。
(※アスペン研究所関連事業については、詳しくは第5回でご紹介します)
・湘南国際村リブイン・セミナー(1994〜2006年)※駐⽇東京アメリカンセンター共催
テーマ「持続的経済成⻑と環境」、「持続的社会のための⾏政、企業・NGOの役割」、「電⼦情報化社会:電⼦情報網の構築と社会経済⽂化の変化①〜④」など。
・かながわ・バンフセミナー(1995〜1998年)※バンフ・センター(カナダ)共催
「環境とリーダーシップ」、「地球環境の時代を考える」、「環境共⽣型の都市づくりと地域の役割」など、環境問題をテーマに実施。県内の関係機関の職員が参加。



かながわ・バンフセミナーより
(第1回「21世紀に向かっての環境と
リーダーシップ」1995年10⽉開催)

○国際⼈材の育成
国際⼈の養成はK-faceの重要なミッションであり、中でも、世界の平和や国際協⼒の活動に意欲を持つ⼈材育成は、⺠際外交政策の重要なテーマでした。⼤学⽣・⾼校⽣など若い世代に向けた平和・国際協⼒等に関わるセミナーは、多くが統合後も引き続き実施されています。

<主な事業>
・K-faceアジアセミナー(1997〜1999年)
マレーシア戦略国際問題研究所他と共催。テーマ「アジア・太平洋地域の新時代を考える」「21世紀のアジア諸国間関係の再構築」「グローバル化の中の分権を考える〜『アジアの地⽅の時代と共に⽣きる』」。
モデレータ:N.ソピー(マレーシア戦略国際問題研究所会⻑兼CEO、鈴⽊祐司(法政⼤学教授)等。
・国連⼤学グローバルセミナー(1995年〜現在も継続)
湘南国際村開設にあたり研究機関との連携を模索した成果として、国連⼤学が実施していた「グローバルセミナー」を共催する協定を結び、以後24年にわたり毎年実施。毎年約100⼈が参加する4泊5⽇(現在は3泊4⽇)のセミナーで、これまでに約2,000⼈が参加。国際機関職員、研究者、実務家など多数輩出(参加者の約2割は留学⽣)。
(※学⽣対象の国際⼈材育成事業については別の回で詳しくご紹介します)

○⽣涯学習事業(リカレント研修)
湘南国際村内の研究・研修機関の研究成果を広く県⺠に還元する事業として、「湘南国際村研究研修ネットワーク協議会」が組織され、⽣涯学習プログラムが企画・実施されました。

<主な事業>
・かながわを⽣きた⼈々セミナー(1997〜2001年)
鈴⽊⼤拙、澤⽥美喜、⼆宮尊徳など神奈川ゆかりの⼈物を題材としたK-face独⾃の研修プログラム。
1995〜1996年は「かながわエグゼクティブ・セミナー」として経営指導者層向け研修として実施。設⽴当初から検討・開発、ビデオ教材等も作成。

・K-faceセミナー(1993〜2000年)
県内各地区への出張セミナー 講師:⽥中優⼦(法⼤教授)等

(3) 交流事業
研究成果を発表し合ったり、シンポジウムで議論を深めたりする機会を可能な限り企画開催し、国内・国外の⼈々の交流を促進するとともに、その成果を内外に発信することは、湘南国際村計画の⽬的の根幹でした。組織・財源が縮⼩された現在、海外からの講師招聘などは容易ではありませんが、「交流」は継続して重視しています。

(4)地元⾃治体や三浦半島地域の取組への協⼒
地域社会の発展に寄与することも湘南国際村計画の⽬的の⼀つでした。この分野では、葉⼭町と共催により地域住⺠のための国際理解講座「葉⼭国際セミナー」が⾏われた(1994〜2005年)ほか、研究事業と連動して三浦半島情報ネットワーク研究・マルチメディアフォーラム(1997〜1999年)などが実施されました。

第5回 「湘南国際村」を拠点に研究・⼈材育成・交流 かながわ学術研究交流財団の事業 その2(1999〜2007年)に続きます。



参考資料

・「K-face15年のあゆみ〜かながわ学術研究交流財団の軌跡」かながわ国際交流財団 2008年9⽉
※K-faceのすべての事業の記録が網羅されています。



PDF全ページ
ダウンロード

・湘南国際村について(神奈川県ホームページ) http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f5962/
・湘南国際村 http://www.shonan-village.jp/

・「21世紀の国際交流拠点づくり…湘南国際村への7つの提⾔」湘南国際村会議編 第⼀法規 1990年10⽉
・「地球社会への船出」湘南国際村オープニング・イヤー実⾏委員会 1994年5⽉
・「湘南国際村から」財団法⼈かながわ学術研究交流財団編著 神奈川新聞社発⾏ 2001年3⽉

・「⺠際外交の研究」⾅井久和・⾼瀬幹雄編、三嶺書房 1998年1⽉
・「⺠際外交の挑戦−地域から地球社会へ」鈴⽊祐司、新藤宗幸、⾼橋進、磯村早苗、⺠際外交10年史企画編集委員会編 ⽇本評論社 1990年12⽉
・「知事と補佐官」久保孝雄著 敬⽂堂 2006年6⽉
・「⺠際外交20年 世界に開かれた神奈川をめざして」神奈川県 1995年3⽉

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