保育園・幼稚園での

外国につながる園児・保護者
受け入れガイドブック

はじめに
[マンガ]外国につながる園児の受け入れをした保育者の気持ち
ガイドブックを読んでくださる皆さまへ
受け入れる前の準備
資料の紹介
日本の当たり前がわからないこともある
[マンガ]「水筒にお水かお茶を」と言われても…
ルールや持ち物について
園児とのコミュニケーション
[マンガ]何語で保育したらいいの?
日本語で生活する機会を提供し日本社会の第一歩を見守る
園児の母語の発達
保護者とのコミュニケーション(会話編)
[マンガ]外国人保護者は透明人間?
こんな時どうする?
保護者とのコミュニケーション(書面編)
[マンガ]テクノロジーを使うためにも「やさしい日本語」
翻訳ツールの活用
いざというときのコミュニケーション
いざというときのための備え
日本特有のもの、言葉にしないとわからない文化
[マンガ]うわばきは難しい…
多文化共生にむけて
[マンガ]「おはよう!」からはじめよう
宗教上・文化上の配慮
差別、偏見、ステレオタイプ、マイクロアグレッション
お互いを良く知るために
※このガイドブックでは保育士・幼稚園教諭等を総称で“保育者”と記載します。

はじめに

外国につながる園児の受け入れをした保育者の気持ち

ガイドブックを読んでくださる皆さまへ

 定住する外国人が増えている中、日本で生まれる子どもの24人に1人※が外国につながる子どもです。
 それに加え、乳幼児期に来日する子どもも増えています。
 ※人口動態統計(厚生労働省2022)

 保育園・幼稚園は義務教育課程ではありませんが、日本で長く暮らしていくために幼児期から園を通して社会や地域の人々とつながっていくことはとても大切です。

 上の漫画は、来日直後の日本の文化も日本語も全くわからない外国ルーツの子どもを受け入れた保育者の話です。最初この保育者は、外国につながる子どもを受け入れることを戸惑っていました。しかし、一生懸命に関わりながら、子どもが言葉や習慣に慣れていく様子を見て、友達ができていくことを嬉しく思い、園でできた友達が小学校に入ってからも外国ルーツの子を守ってくれる場面を目の当たりにし、園における受け入れの大切さを実感しています。これまでも全国各地の園で外国につながる子どもの受け入れは行われていましたが、今後はさらに増えていくと予測され、この漫画のような場面が各地で見られると思います。

 その一方、神奈川県綾瀬市において、かながわ国際交流財団(以下「KIF」という。)が綾瀬市の協力のもと2022年度に実施した調査によると、3歳以上で保育園幼稚園に入園していない子どもは、外国人幼児(3~6歳の134人)全体の41%にも上りました。日本人の3~6歳(1,932人)の未就園は4.8%だったので、それと比較して8.5倍にもなることがわかりました。“外国人住民に入園希望の意思がないのでは? ”と思う人もいるかもしれません。しかし、KIFが神奈川県からの委託をうけて運営している外国人への情報提供・相談窓口である「多言語支援センターかながわ」では、外国人からの入園に関する相談を多く受けています。

例えば、外国人保護者からは次のような相談が寄せられています。
非正規で働いているため労働時間が不規則で、入園要件を満たさないため保育園に入れない。
入園に関する書類が難しくて書けない。(日本語がわからない・支援者がいない)
幼稚園に願書を出したところ、親子ともに日本語ができないことを理由に入園を断られた。
 (日本語ができるようになってからまた相談に来てくださいと言われた。)
受け入れ側(園の職員)が外国語ができないという理由で断わられた。
宗教上の配慮ができないという理由で入園を断わられた。
このような相談のほか、入園したあとの課題など多岐にわたります。

 認可保育園への入園に関して、要件が満たされないのであれば入園できないこともあると思います。しかし入園できない理由が言語・宗教・人種であったとしたら、外国人保護者はどのように思うでしょうか。平等に扱われていない、人権が大切にされていないと思うのではないでしょうか。園への外国人の受け入れに戸惑いがあるかもしれませんが、言語・宗教・人種などを超えて子どもを育てていける環境づくりが大切です。

 外国人の入園については、園・行政・保護者それぞれの歩み寄りができる環境づくりがあれば変わってくると思います。このガイドブックが、園でスムーズに外国人園児・保護者を受け入れることを考えるきっかけになれば嬉しく思います。

2024年1月
公益財団法人かながわ国際交流財団

受け入れる前の準備

◆ 地域で暮らす外国人住民について知る

 皆さんの地域には、どんな外国人が暮らしていますか。地域で暮らす外国人住民の出身国、言語、文化的背景は、仕事や来日経緯などの関係から、各地域ごとに何かしらの傾向が生まれていることがあります。そしてその傾向は時期によって変わることがあります。
 工場の多い地域などに労働者として外国人の家族が暮らし始め、定住していくのはよくある話です。
 その他にも、同じ国や地域(同郷)の仲間がいる地域だから安心できるといった理由で外国人住民が増える場合もあります。
 まずは、園がある地域にはどのような外国人が居住していて、どんなお子さんが入る見込みがあるのか確認しておくとよいと思います。自治体の母子保健担当課は、居住しているすべての乳幼児を把握していますので、多くの場合、外国籍の子どもについても学齢期前の状況を把握しています。それを知ることによって、数年以内にどのような背景の外国人が入園する可能性があるのか予測することができます。

◆ 入園する子どもと家族、それぞれの背景を理解しておくことが大切

 外国人住民の在留理由は人それぞれです。さらに、同じ国・地域の出身者であっても、言語、文化的背景が異なることがあります。その他、在留資格、日本社会との接点、日本での(保護者自身や子どもの)就園・就学経験(期間や時期も含めて)、家庭の教育方針も異なることがあります。
 また、「同じ国・地域出身の人=その国・地域の主要な宗教を信仰し、主要な言語を話している人」ではありません。例えば、神奈川県の県央地域に比較的多く暮らしているスリランカ人は、スリランカの主要宗教の仏教を信仰したり、主要言語のシンハラ語を話したりするのではなく、イスラム教を信仰しタミル語を話すことが多いです。この例のように同じ国・地域の出身であっても、言語も文化も違う場合は、交わるのが難しいこともあるでしょう。
 また保護者は、自身が母国で経験した保育園・幼稚園のイメージを持っています。国・地域によって教育制度が異なることがありますし、良い子育てのイメージは異なります。その他、給食がないこともあります。日本との違いに戸惑うのは当然のことです。そうした戸惑いを理解するために、受け入れ前の背景理解は大切です。

◆ 受け入れ前の背景理解の具体例

 保育園や幼稚園の従来の調査票には項目がないことが多いと思いますが、入園する園児および保護者に次の項目を確認しておくと、その後の対応がしやすくなります。

  • 子どもの背景(どこで生まれたか、来日前の就園状況、来日年齢と滞在期間など)
  • 国籍
  • 日本の小学校への就学予定
  • 家庭内での言語使用状況(家庭で話されている言語の確認)(国籍が日本であっても、両親は外国にルーツがあり家庭では日本語を話していない場合がある)
  • 両親及び同居家族の話せる言語の確認(例えば、母語以外に英語やその他の言語が話せるか)
  • 両親及び同居家族の日本語レベル(習得状況)
  • 園児の日本語の習得状況(ただし、入園時に子どもが全く日本語を話せないとして、園での生活を通じて日本語を覚えていくことが可能です)
  • 保護者への連絡方法や緊急連絡先(日本語を話す周りの人や勤務先の情報を含む)
  • 配慮事項(宗教、生活習慣、食事など)
  • 本名と呼称、保護者本名と呼称

 事前にこれらのことを確認しておく理由は、これからどのような対応が必要とされるのか心構えを持てるようになるからです。特に言語面では、外国出身だからといって英語で対応ができれば大丈夫なわけではないため、今後のコミュニケーションにおける対応策や工夫を考えるうえでも、情報を把握しておくことが大切です。

ここで紹介する資料はKIFが運営する「外国人住民のための子育てサイト」にてダウンロードできます。

https://www.kifjp.org/child

児童調査票

外国につながる子どもを受け入れる前に背景を確認するための、「児童調査票」を多言語(日本語併記)で用意しています。入園前の背景理解のための参考資料としてご活用ください。

https://www.kifjp.org/child/supporters#chousa

外国につながる親子のための入園のしおり

園からの事前の情報提供の大切さ

 子どもを日本の保育園・幼稚園に初めて入園させる保護者にとって、いろいろなルールがわからないことがあります。また、園そのものについてわかっていない場合もあります。
 入園説明会の際には、多言語資料などもできるだけ活用しながら、きちんと園について知ってもらうことが必要です。
 幼稚園などにおいては、制服の夏服・冬服などがあり衣替えの時期などもあると思います。衣替えという文化がない国もあります。例えば、入園式には夏服もしくは冬服で出席すべきか、自由に選択できるかなど、きちんと伝えておくことが大切です。

https://www.kifjp.org/child/supporters#shiori
9言語(日本語併記)

日本の当たり前が
わからないこともある

「水筒にお水かお茶を」と言われても…

ルールや持ち物について

 日本の保育園や幼稚園でのルールや持ち物については、日本特有なことも多く、他の国・地域の常識とは異なることがあるため、説明を追加する必要がある場合があります。

 例えば、子どもに水筒を持たせる習慣がない国・地域は少なくありません。また、水筒の購入に経済的な負担感を感じる場合もあるため、準備に戸惑う保護者も多いそうです。また、「水筒を持ってきてください」という連絡だけでは、飲み物を入れて持たせるのか水筒だけ持たせればよいのか、飲み物を入れる場合は何を入れるのかわかりません。「お茶か水」との指示があっても、その「お茶」は紅茶、緑茶、麦茶のどれが望ましいのかといった判断は難しいでしょう。

 上の漫画は「水筒にお水かお茶を入れてきてください」と園から言われたときのエピソードです。実際に日本に住む外国人保護者にきいたところ「お茶とはカフェインが入っていて苦いもの。子どもが飲むものではない」という反応がまっさきに返ってきました。日本では古くからルールや持ち物について夏には「麦茶」を飲むという習慣があります。麦茶にはカフェインが入っておらず無糖であり子どもでも飲める、と暗黙の了解のように知られています。しかし、他の国・地域から来た保護者には、「茶」という言葉とカフェインがつながるイメージが強く、理解ができなかったようです。
 このようなときには、水筒の中身を入れてくるのか、入れてくるのであれば何を入れてくるのか明確に伝えることが大切です。
 お茶については一例ですが、ルールや持ち物について説明するときは、文化の異なる人でもわかるように説明を工夫すると良いと思います。例えば、写真をつけたり、現物を見せるのはいい方法です。

写真を使った持ち物リストの一例(ベトナム語併記)

「外国につながる親子のための入園のしおり」より

園児とのコミュニケーション

何語で保育したらいいの?

 外国につながる園児を受け入れるとき、 どのような言葉で接したらよいのか迷っている 保育者は多いようです。

日本語で生活する機会を提供し日本社会の第一歩を見守る

 保育者が日本語で丁寧に言葉を話しかけることによって、日本語が母語でない子どもにとっても物事の理解が促されることがわかっています。また、日本語で答えて褒められると自己肯定感の向上につながります。
 たとえ、日本語が全くできない子どもが入園しても、園において保育者が積極的に日本語でかかわり、話しかけていれば、数か月後、子どもはどのような行動が求められているか理解できるようになることが多いようです。園での生活は子どもたちにとって日本語や日本社会を学ぶ大切な機会です。十分に機会を提供しましょう。日本語を習得する過程で外国につながる子どもが無言になったり言葉数が少なくなる時期がありますが、そのときもたくさん話しかけてあたたかく見守ってください。
 また、両親ともに英語が通じるため、その子にも英語が通じるかもしれないと思い、日本語と英語を混ぜて話していると、それを聞くことで、その子の日本語の言語発達やその後の小学校での学習等に課題が生じることがあるかもしれません。左の漫画でも、英語の「ネーム」という単語はわかっているかもしれませんが、英語が母語ではない場合、それ以上の英語がわからないことも多いようです。3年間、園の中で日本語をたくさん話をしていたおかげで、就学時には話し言葉には困らなかった外国につながる子どもも多くいます。
 言葉がまだ理解できない日本人の乳児と話すとき、「どうせわからないから」と思って無言で保育をしないのと同じです。日本語がわからない子どもにとって、園での生活は今後日本社会とつながる最初の一歩。大切な時なのです。日本語でたくさん話しかけることが大切です。

園児の母語の発達

 幼児の発達段階を考えると、園児の母語も完璧ではありません。保護者の言葉がわかるようになるには、家庭において保護者は保護者の得意な言葉(たいていの場合は母語)で子どもに話しかける必要があります。そのことによって、子どもと親の親密性が増し、子どもは物事を深く理解できるようになります。保護者にはぜひ「家庭で母語でたくさん話してください」と伝えてください。その発達は、その後就学後の学習能力の向上の手助けになります。そのため、保育者が日本語を得意としない親に家で日本語を話すようにお願いすることは避けましょう。
 また、母語で伝えれば理解できるのではないかと、園児に対して翻訳アプリ(機械翻訳)を使う園もあるようですが、場面によっては機械を使った対応を避けたほうが良いと思います。翻訳アプリは、通常、大人が使う言葉で変換されるため、(たとえ、子どもがその単語を理解できても)必ずしも幼児に適した言葉遣いではない場合があります。
 もうひとつ付け加えると、まだ両言語が未熟な園児に通訳を依頼しないほうがいいです。日本語を習得している途中の子どもに負担をかけることになってしまいます。
 保護者へのコミュニケーションにおいては、通訳や翻訳アプリ(機械翻訳)などを活用ことは構いません。伝えることにおいては様々な工夫をしていくことが大切です。保護者とのコミュニケーションについては次の頁でお話ししていきます。

保護者とのコミュニケーション
(会話編)

外国人保護者は透明人間?

 日本語での会話が難しい保護者とのコミュニケーションに大変さを感じている保育者は多いようです。
 上の漫画に登場する母親は、園にお迎えに行ったのにもかかわらず、日本語ができないということで、自分の子どもとお友達とのアクシデントついて先生から伝えてもらえませんでした。おでこがぶつかった相手側の子どもの保護者にはきちんと説明されているのに、何も伝えられず、その場にいない自分より日本語ができる夫に電話で伝えられたため、「透明人間になったみたい」と、とても悲しい気持ちになりました。言語では伝わらないかもしれませんが、人と人との間には非言語コミュニケーションで伝わること、伝えられることがあります。保育者側で「日本語がわかるお父さんに電話すればいいか?」という結論を出す前に、「お母さんにどのように伝えたらよいのか」を考えて、まずは簡単な日本語でコミュニケーションをとってみてください。

 日本語で伝えた場合、保護者は細かい部分はわからないかもしれません。でも、この子とこの子がおでこがぶつかったという部分はジェスチャーを交えて伝えることができると思います。詳しく伝わらなかった場合、詳細については、あとから日本語のわかる父親に伝えればよいと思います。また、保護者とのコミュニケーションにおいては、翻訳機で伝えたいことを訳してから見せたり、電話による通訳サービスなども活用できるかと思います。

保護者との日々のコミュニケーションは挨拶から始めることが大切です。
 「おはようございます」と日本語で話すことはもちろんのこと、その方の言語でも挨拶ができたらとても喜ばれると思います。大人になってから来日した場合、日本語を習得するのはとても難しいことがあります。日本に長く住んでいても、日本語があまり理解ができない方もいます。

  • 1.事前の防止策

    子どもが「病気・けが」などと園から連絡があったら必ず迎えに来るように約束をしておく。園のルールだということを説明会などで伝えておく。

  • 2.はじめにできること

    やさしい日本語を試す(言い換える)
    例)〇〇くんは病気です。食べたものを口からたくさん出しました。〇〇園にすぐ来てく ださい。

  • 3.やさしい日本語が難しいとき

    翻訳機で訳して音を聞かせる
    例:Đứa trẻ ném lên.

  • 4.それでも通じないとき

    市町村の外国人相談窓口や「多言語支援センターかながわ」に連絡。活用するには事前に活用の仕方を調べておくことが必要。
    ※「多言語支援センターかながわ」は電話通訳可 →「いざというときのコミュニケーション」を参照

保護者コミュニケーション
(書面編)

テクノロジーを使うためにも「やさしい日本語」

※このマンガ内でアプリの画面は日本語の上に日本語が出ていますが、実際の翻訳アプリでは保護者のわかる言語で翻訳文が出ます。

 日本語を読むのが難しい外国人保護者にとって、園からのお手紙を読み解くのはとても大変です。
 園側にとっても毎回のお手紙を翻訳するのはとても手間がかかり、保護者の言語に合わせて何言語にも翻訳する手間をかけるのは、通常の業務に加えて新たな負荷がかかるので大変なことになってしまします。
 近年はテクノロジーの発達によって、テキストデータがあれば、簡単にスマホやPCなどで翻訳をすることができるので、とても便利になりました。紙面を画面にかざすだけで翻訳できるアプリなどもあるため、日本語が苦手な外国人保護者であっても概要がつかめるようになったと聞きます。
 しかし、こちらの漫画のように、元の日本語が季節の挨拶からはじまり、文章の構成がわかりにくかったりすると、主旨を理解できないことがあります。また、翻訳アプリの特性から手書き文字は認識されないこともあります。

 翻訳ツールを使う保護者にも、少し日本語がわかる保護者にも、とても役に立つのが“やさしい日本語”です。やさしい日本語の作り方は、出入国管理庁と文化庁が作成した「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」などにも書いてあります。日本語が母語ではない外国人などにもわかりやすい日本語です。
※漫画では、アプリを使用するとき読み仮名が被って見えてしまうことをお伝えしましたが、平仮名を読める保護者においては、読み仮名がついたお手紙が情報の理解を助けてくれます。

在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(出入国在留管理庁・文化庁)

https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html

こちらは機械翻訳の一例です。翻訳文は必ずしも完ぺきではありませんが、大まかな内容は理解できるレベルであることが多いです。
また、固有名称(公園の名前など)は意図しない形に訳される場合があるので、場所の名称などは確認できるようにしておくと良いでしょう。

いざというときの
コミュニケーション

 保護者とのコミュニケーション(会話・文面)における工夫について前にご紹介してきましたが、それらの工夫や“やさしい日本語”には限界があります。正確に伝えなければならないことや、保護者から細かく聞き取りが必要なことは、「多言語支援センターかながわ」などの外国語に対応できる窓口の活用をしてみるのも大切です。

 保育園・幼稚園によっては、日本語ができる保護者の友人・ 知人に通訳を頼む場合があるようですが、知人・友人などの通訳には翻訳の正確性や負担の大きさなどさまざまな面で課題があります。保育者が伝えたことをすべて訳されていない場合や、通訳者の意見を付け加えて通訳され大きなトラブルになるということもあります。大切な場面のコミュニケーションには、できるだけ通訳サービスなどを使うと良いと思います。

いざというときの場面の例

お友達とのトラブルが発生したとき
病気や大きな怪我など医療機関につなげることが必要な時
納入金の不足など、金銭に関わるとき

多言語支援センターかながわ

多言語支援センターかながわでは15分程度の電話通訳が可能です。対応言語の曜日を確認し利用してみてください。

TEL:045-316-2770

https://kifjp.org/kmlc

通訳・翻訳アプリ

 前頁でも紹介した通り、翻訳通訳アプリも活用の仕方によってはとても役に立つツールです。
 先に紹介したカメラをかざす翻訳アプリのほか、国立研究開発法人情報通信研究機構の作成しているVoiceTraというアプリもあります。会話のなかでこの単語や文章はその方の言葉で伝えたいというときに利用すると便利です。

国立研究開発法人情報通信研究機構
先進的音声翻訳研究開発推進センター

https://voicetra.nict.go.jp/

いざというときのための備え

 子どもが病気や怪我をしたとき、または地震や自然災害などのときは、どのようにすれば外国人保護者に情報を伝えられるか考え、事前に多言語資料などを準備しておくと安心です。

かすたねっと(帰国・外国人児童生徒教育のための情報検索サイト)

(制作:文部科学省)
 「かすたねっと」は、帰国・外国人児童生徒教育のために文部科学省が提供する情報検索サイトです。外国につながる児童・生徒の学習や活動を支援するための情報検索を行うことができるのですが、「文書検索」をクリックすると出てくる資料の中には、大切なことを多言語化しているものがあります。例えば、「届出・証明書」の分類にある「登校許可証明書」のような多言語資料は、保育園・幼稚園でも活用できますので参考として紹介します。

https://casta-net.mext.go.jp/

多言語医療問診票(23言語11診療科目)

(制作:NPO国際交流ハーティ港南台&公益財団法人かながわ国際交流財団)
 多言語医療問診票は、日本語が難しい外国人が、病気やけがをしたときに、その症状を母語(またはわかる言語)で医師などに伝えらえるように制作されたものです。11診療科目、23言語で用意していますので、子どもが病気やけがなどで病院にかかるときに活用できます。

https://kifjp.org/medical/

災害時など

災害時の多言語支援情報サイト
(かながわ国際交流財団)
 災害時にはこちらのサイトで情報を発信します。防災に役立つ情報もまとまっています。

https://www.kifjp.org/disaster/

多言語情報サービス INFO KANAGAWA(8言語)
(かながわ国際交流財団)
 毎月3回程度、外国人住民向けの生活情報を多言語でメール配信しています。災害時にも役立つ情報を発信します。災害に備えるためにも、保護者に登録を促してみてください。

https://www.kifjp.org/infokanagawa/

日本特有のもの、
言葉にしないとわからない文化

うわばきは難しい…

 この漫画は、日本の特有のものについてのエピソードです。そして言葉にしないと伝わらない文化・習慣についてのエピソードでもあります。日本で育った人にとっては、「上履きを持ってくる」「上履きは週末に持ってかえる」というのは「あたりまえ」かもしれませんが、その経験がない保護者にとってはその「あたりまえ」が全く想像できないことがよくあります。例えば、園や学校で上履きを使用する国や地域はほとんどありません。

 最初に少し触れましたが、保護者の立場から見ると次のふたつのことがわかりません。

1.上履きとはどのようなものか
2.金曜日に上履きを持って帰り、月曜日に持ってくる理由

 1の上履きに関しては、「室内履き」を使う国もありますが、それは日本の「上履き」とは異なる形態のものも多いです。漫画の母親が言っているとおり、スリッパだったり、真新しいスニーカーだったり、その文化によって大きく異なります。
 このように「必要なもの」がイメージできない場合は、実物を見せたり、売っている場所を教えると親切です。
 2の「上履きは金曜に持って帰って月曜日に持ってくる」に関しては、日本では持って帰ったら洗うという暗黙の了解があることを伝えきれていないと思います。
 例えば、「金曜日に持って帰って、月曜日に持ってくること」と説明をしても、多くの場合、「洗ってくるもの」とは理解されてません(洗わないでそのまま持ってくる、なぜ自宅に持って帰らなければならないか理解していない)。また、買い替えの頻度について悩む保護者も多いようです。

 日本において「あいまいな」コミュニケーションが成立するのは、日本人の多くが、会話の相手と細かいレベルで生活上の情報(=文脈、コンテクスト)について、(あえて言葉にせずに)共有できているため(文脈に依存した会話をしているため)です。これを、「高コンテクスト文化」とも呼びます。
 他方、「低コンテクスト」な文化とは、コンテクストより言葉のやりとりを重視する習慣です。例えば、様々な言語、民族、文化的背景を持つ人々がその成り立ちに大きな影響を持っている国・地域では、言葉で明確に説明する必要があったため、「低コンテクスト」な文化が醸成されてきたとも考えられています。
 言葉にして細かく説明することも文化の違いの一つであることを理解して、今後外国人保護者によってはそのような説明の必要がある文化から来ている人もいるのだということを気に留めて、伝えるとお互い誤解が少なくて済むと思います。

多文化共生にむけて

「おはよう!」からはじめよう

宗教上・文化上の配慮

 外国につながる子どもを受け入れるということは、異なる言語、文化、宗教背景を持つ人たちを受け入れるということです。

● 宗教

 日本には様々な宗教の人たちが暮らしています。例えば、イスラーム教徒の子どもを受けいれる際は、食事や服装などへの配慮などが必要です。特に食物については、禁忌(タブー)とされる物があり、よく知られているところでは豚肉、酒類(アルコール)が挙げられます。そして、それらを含む加工食品(ゼラチン、コンソメ、みりんなど)なども避けられます。
 イスラム教徒であっても、出身国、地域、宗派、個人の考え方によって生活習慣は微妙に異なるため、各家庭への確認が大切になります。イスラームの子どもたちを理解するためにという冊子をKIFが作成しているのでこちらも参考にしてみてください。
 その他、ヒンズー教の場合は牛肉が禁忌とされています。宗教による違いと注意すべきことを事前に保護者と話し合うことが必要です。

イスラームの子どもたちを理解するために
https://www.kifjp.org/islamchildren

● 文化

 文化上の違いについても保護者から配慮を求められる場合があります。例えば、生まれてすぐにピアスの穴を開けることが重要な意味を持つ文化があります。ピアスを外すように求めても(着用の禁止を説明しても)、幼い頃からピアスをすることが重要な意味を持つ場合、保護者から断られることがあるかもしれません。また、禁忌は文化によって異なるため、子どもの頭を左手で触る、左手で食べ物を渡すといったことがとても嫌がられる場合があります。

差別、偏見、ステレオタイプ、マイクロアグレッション

 「日本語ができない保護者には懇談会の声掛けがされない」という話を外国人の保護者の嘆きとして聞くことがあります。その理由としては、「来ていただいても日本語がわからなくて、かわいそうだとと思うから」「こちらがケア出来ないから」といったことだという説明を保育士から受けたことがあります。これは公平性の観点から考えると差別に当たってしまうので注意してください。
 また、最近は「マイクロアグレッション」という言葉が理解されるようになってきました。小さな、微細な、軽微な(=マイクロ)、攻撃性(=アグレッション)という意味です。言葉を口にした本人に、相手を差別したり、傷つけたり、攻撃したりする意図がある・ないにかかわらず、対象となった相手(個人や集団)を軽視したり、侮辱するメッセージを含んでいて、相手に(心理的な)ダメージを与えてしまう言動のことを指します。
 例えば、どうせわからないでしょという態度や、逆に見た目だけで「外国人」と判断し「外国人なのに日本語上手ですね」と言ったり、日本語ができないと勝手に推測して英語で話しはじめることもマイクロアグレッションとして考えられてしまう場合があリます。差別をしようと思っていないのにその言動が人を傷つけてしまうのです。
 〇〇人はこうだなどと決めつけるステレオタイプもとても良くないことです。

お互いを良く知るために

 多文化共生社会は、これからも進んでいくと思います。これは日本だけでなく、世界で進んでいます。
 ここまでいろいろな視点でお伝えしてきましたが、“笑顔で挨拶 ”から行動を始めるのはいかがでしょうか? そして、人それぞれの出来ることを理解し、お互いを尊重し、それぞれの文化のよいところを理解できるといいと思います。
 これからの社会を生きていく子どもたちにとって、クラスに違う文化の友達がいると視野が広がります。それぞれ異なる考え方があるとわかると、考えが深まります。同級生に多様な人たちがいるということは、とても大きなメリットとしてとらえられるのではないかと思います。

参考文献

  • 石井敏・久米昭元・長谷川典子・桜木俊行・石黒武人 2013「 はじめて学ぶ異文化コミュニケーション ―多文化共生と平和構築に向けて」有斐閣
  • 伊藤明美 2020「 異文化コミュニケーションの基礎知識」大学教育出版
  • 久米昭元・長谷川典子 2007「 ケースで学ぶ異文化コミュニケーション ―誤解・失敗・すれ違い」有斐閣
  • 公益財団法人宮城県国際化協会 2022「 教育現場におけるイスラム圏児童・生徒の受入に関する事例集」
    https://mia-miyagi.jp/dc/casestudies_islam.pdf
  • 徳井厚子 2020「 多文化共生のコミュニケーション ―日本語教育の現場から(改定版)」アルク
  • 文部科学省 2021「 外国人幼児等の受け入れにおける配慮について(令和2年3月)」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youchien/mext_00505.html
  • 文部科学省 2022「 外国人の子どもの就学状況等調査(令和3年度)の結果について 」
    https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421568_00002.htm
  • 八木京子・荒木晶子・樋口容視子・山本志都・コミサロフ喜美 2001「異文化コミュニケーションワークブック」三修社
  • 山本志都・石黒武人・Milton Bennett・岡部大祐 2022「異文化コミュニケーション・トレーニング ―「異」と共に成長する」三修社

保育園・幼稚園での
外国につながる園児・保護者受け入れガイドブック

発行:公益財団法人 かながわ国際交流財団
〒221-0835
神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2 かながわ県民センター13階
Tel : 045-620-4466(www.kifjp.org)

漫画・イラスト:星野 ルネ
協力:バイリンガル・マルチリンガル子どもネットBM 子ども相談室(PDF p.9)、綾瀬市役所 市民活動推進課、保育課、健康づくり推進課

2024年1月発行


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