シンポジウム

東京藝術大学の国際シンポジウム「イミグレーション・ミュージアム―日豪の対話」にパネリストとして参加し、マルパについて報告しました。

(報告者 KIF 野呂田)

イントロダクションでは、主催者である東京藝大教授・熊倉純子氏(アートマネジメント)からのあいさつに続き、同じく主催者であるメルボルン・モナシュ大学教授・岩渕功一氏(社会学)から、今回のシンポジウムの目的について、また、日本・オーストラリア両国における多文化状況について説明がありました。
その説明で驚いたのはオーストラリアでは国民の49%が海外生まれ、国内で話されている言語は300、 アジアからの移民と深く関わっており、「アジアリテラシー」(オーストラリア社会の要素であるアジアとのつながり)さえ必要であるとのことでした。

日本とは異なるレベルでの多文化状況はオーストラリア国内の文化政策・事業にも反映され、それらについてセッション1では、メルボルン移住博物館スタッフ(リンダ・スプロール氏、ジャン・モロイ氏、マギー・ワトソン氏)やプログラム講師(アリス・プン氏)から、同館の企画展・イベントがさまざま民族のコミュニティとの協創によって実施され、ミュージアムによる社会変革さえも強く意識されていることが印象的でした。

講演者の一人として登場した、ヒップホップアーティストL-freshは自らを「オーストラリア出身」と認識しているにも拘わらず、他人からはそれが認識されにくいことから生まれる差別の中で、「オーストラリア人になるということはどういうことなのか?」という問いをヒップホップに託していました。

セッション2では、関西大学教授村田麻里子氏(社会学)から、日本のミュージアムにおいて多様性への対応がそれほど進んでいない現況が説明された後、今回の主催者でもある岩井成昭氏は自ら主宰するアートプロジェクト「イミグレーション・ミュージアム・東京」のキーコンセプトやこれまでの変遷について、そして、私は日本の美術館教育普及の歴史や概況と、そこから、なぜMULPAの立ち上げにつながったのか等の報告をしました。

セッション3のパネルでは、報告者同士の意見交換やフロアとの質疑応答がありましたが、そこから、(国民の半分が海外とつながる)オーストラリアのミュージアムによる、多様な文化的背景を持つコミュニティとのアクティブな活動は、日本のミュージアムが近い将来、迎える姿かもしれないと改めて感じたところです。